天気の話なんてどうだっていいんだ。
僕が話したいことは、
昨日偶然、見かけた君が
物凄く
寂しそうに空を見あげていたから
その、理由が知りたくて
何故だか無性に気になって…。
同じ時間のバス停でしか
接点のない僕ら
なんとなくの会話をするように
なったのは、遅刻しかけて
家を飛び出した僕の
口に歯磨き粉の残りが付いていたからだった。
彼女は、鞄から手鏡とティッシュを
出してくれたが
それと、一緒に沢山の小さなお菓子まで
ポロポロと落として、顔を真っ赤にした彼女
が、慌てて拾うのを手伝いながら
2人でクスクスと笑った。
一年が経ち、転勤が決まった。
いつものなんとなくの会話で転勤の
話しをした。彼女は、寂しくなるなーと
鞄から小さなお菓子を取り出して
お餞別!っと、頬を染め…あの日みたいに
クスクスと笑っていた。
『雨は、大丈夫そうですよ』
スマホを眺めていた、彼女は僕の
方に顔を向けた。
『あ、ありがとう。ところでさ…』
-連絡先、交換しませんか?-
これが、これから始まっていく
僕らの物語の始まりだ。
涙の理由も、僕らが連絡をとり始めてから
久々に会う話も…まだ、少しだけ先の話し。
前だけ向いて
全力疾走していれば
報われると思った。
足を止めると、その後ろにあるモノに
容易く吸い込まれる『かもしれない』
という、恐怖感もあった。
助けての、ひと声も上げず
前へ前へ
何処がゴールかもわからずに。
時計の針を飛び越えるように
日めくりカレンダーを空になるまで
むしり続けるような日々だ。
そのうちに、心身が空回りをはじめた。
カラカラという音は
バランスを崩すほどに
大きな音に、変わっていくが
私はそれを無視した。
そして、ある日突然に
足が動かなくなった。
見渡しても『かもしれない』など
なかった。
私は、私の存在や評価、価値という
形のない私自身から
逃げていたのだ。
【お題:ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。】
ごめんね、ごめんなさい!
ごめんっ!ごめんなさい!
ごめんなさい…ごめんなさい…
あぁ、もう誰に謝ってるのかすら
よく、分からなくなってくる。
何が、悪くて謝ってるのかも
忘れてしまった。
私は、まるで謝罪人形。
誰か、背中のスイッチを切って。
思い切り、この身体ごと…。
【お題:『ごめんね』】
傷が気持ち悪いからと…
半袖は着れない。
こんなに痩せてと…
上着を羽織りなさいと言われる。
だから、誰もいない夜道を
歩くときだけ
思い切り伸びをして歩くんだ。
腕を大きくふって
夜風が、鼻先にツンと沁みて
泣かないよ。
胸を張って、歩くんだ。
【お題:半袖】
天国と地獄があるかは
分からないけど。
ふと、思い出すのは
祖父のことだ。
もう、末期癌だった。
夏休みいっぱい滞在して
中学1年の私は慣れない電車で
病院まで通った。
大きな病院の静かな個室で
祖父は、眠っている事が多かった。
ゆっくりと、傍の椅子に腰掛け
祖父が息をしているか…ジッと眺めた。
車椅子を、押して病院内を少し
散歩することもあった。
『天にも昇る気持ちやなぁ、嬉しいなぁ』
と、祖父は物凄く喜んでいた。
その言葉が、何故だか離れなかった。
身体の痛みや息苦しさは
どれほどの地獄だったろうか。
ただあの夏…
私と祖父は同じ時間の中で
ほんの束の間…車椅子を押しながら
天国を歩いたのかもしれない。
【お題:天国と地獄】