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3/28/2025, 11:03:01 PM

小さな幸せ


僕にとっての小さな幸せは。

君と並んで歩けること。

君と手を繋げること。

君を抱き締められること。

君と向かい合わせでごはんが食べられること。

君と同じベッドで眠れること。

そして。

「……おはよ、う」

なんて。
まだ、眠そうな君のおはようを、1番に聞けること。

「おはよう」

「ん、なんで笑ってるの?」

瞼を擦りながら、不思議そうな顔をする君が可愛くて。

これが、俺の小さな幸せの、まだほんの一部。


End

3/28/2025, 6:42:27 AM

春爛漫


いつもしかめっ面の彼。

せっかく席が隣同士になったんだから、そんな彼と仲良くなりたい、なんて思うのは。

「ねぇ、迷惑かな?」

「……何?それ、俺に言ってる?」

俺が席から、じっと、隣の席で本を読む彼を眺めて言えば。

本から視線だけを俺に向けた彼が、相変わらずのしかめっ面で、返してくれて。

それに気分を良くした俺は、思わず笑顔になる。

「そう、君に言ってるの。ねぇ、その本、面白くないの?」

だって、すっごく難しい顔してる。

「……面白くはないよ、興味深いだけ」

それって、どう違うんだろ?
なんて、俺の思ったことが、顔に出ていたのか。

「……別に、お前に理解してもらおうとは思ってない」

そう言って、視線を本の中へと戻してしまう彼に。

「嫌だ、俺のこと見て欲しい」

「は?」

戸惑いの声を上げた彼が、顔を俺へと向けてくる。
目を見開いた、その表情はしかめっ面ばかりの彼には珍しくて、あどけないから。

あぁ、可愛いな。

なんて、心の中で呟いていたつもりが、声に出ていたらしく。

え?と小さく声を漏らした彼の頬は、うっすら赤く染まっていて。

それは、校庭に咲く、桜の花びらを連想させる。

しかめっ面の彼の、別の一面は。
俺にとっての、春爛漫だった。


End

3/26/2025, 6:49:20 AM

記憶


俺の記憶の中の君は、いつだって笑っていて。
明るくて、ちょっとだけお調子者の君。

そんな君が、楽しげに手を引いてくれるから、ちょっとだけネガティブ思考の俺でも、今まで笑って過ごせていたのに。

これが、幸せか、なんて。
俺らしくなく、浮ついた気持ちでいたのに。

「どうして、別れようなんて言うの?」

明るい君には似合わない、涙なんか流して。

「別れたいのは、お前の方だろ?」

とか、君が流れる涙を腕で拭いながら、続けて言うのに、俺は益々、混乱する。

俺が君と別れたい、だって?

そんなことある筈がない。
と、俺がすぐさま言えば。

昨日、女の子と楽しそうにしてたじゃん、なんて。
彼が泣きながら言う。

昨日?

俺が女の子と楽しげにする、なんて有り得ないんだけど。
でも、それで、思い当たるのは1つしかない。

「それ、俺の妹だよ」

そう、俺が真実を告げれば。
君の目がみるみる大きくなって、やがて、涙も引っ込んで。

「っ、それ、先に言ってくれよ!」

なんて、顔を真っ赤に染める。

あぁ、いつも笑顔で明るい君も、不安に涙する時があるんだな。

ごめんな、気が付かなくて。

俺ばっかり心配性なのかと思ってた。
自分のことで、精一杯だった、情けない俺。

こんな俺のことで、君は泣いてくれるのか。

「心配しなくても大丈夫だから」

俺が好きなのは、君だけだよ。
そう、俺が告げれば、君の真っ赤な顔はたちまち、明るくなって。

眩しい笑顔で。

「俺もお前が大好きだよ!」

あぁ、これでこそ、俺の1番記憶に残る、大好きな君だ。


End

3/25/2025, 3:51:26 AM

もう二度と


『もう二度としないからっ!』


なんて、彼の口から聞いたのは、つい1ヶ月前のこと。

「もう絶対しないから!許してほしいっ!」

と、懇願するのが、現在の彼。
ワックスでおしゃれに遊ばせた茶髪の頭を下げ続ける彼に、俺はじわりと心中に広がる失望を吐き出すように、溜息を零した。

派手な恋人の幾度となく、繰り返される浮気に。
俺は、完全に失望している……筈なのに。

別れよう、もう、俺達の関係を終わりにしよう。

そんな言葉が脳裏に過ぎるのに。

「……そんな言葉、信じられないよ」

なんて、弱々しい、震えた声が出るだけで。

そうなると、彼は決まって言うのだ。

『じゃあ、信じさせてあげる』

俺にはやっぱり、お前が1番だよ、と。

涙が滲む俺の、わなわなと震える唇に、そっとキスを落とす。
そして、されるがままに抱き締められると、俺はまた、浮気性の彼を許してしまうのだった。


End

3/19/2025, 10:29:20 PM

どこ?


ねぇ、君はどこに行ってしまったの?

僕と同じベッドで眠る彼が、毎晩抜け出しているみたい。
僕は寝たフリをしているんだけど。

帰ってくるのは、僕が起きる少し前、慌ただしく、ベッドに入ってくるから、そんな風にされちゃったら、目が覚めちゃうよ。

……君が出て行ってからは、不安で眠れないから、どうしたって、僕の目は覚めているんだけど。

君が帰ってくるのが少し遅い日は、玄関が慌ただしくて、僕が平静を装って、そっちに向かえば。

「腹減って起きたから、コンビニ行ってきたんだよ」

そう言って笑う君の手に下げられた、コンビニ袋の中には、パンとコーヒーが2つ。
1つは僕の分だろうから、お腹が空いたなんて言う割には、少ない気がして。

なんで、そんな嘘吐くの?

とか、そんな言葉が喉に出かかるのを、必死で押し止めて。
まだ眠いフリをして、瞼を擦る僕。

君が帰ってきてくれた安心と、いつか離れて行ってしまうんじゃないかっていう不安で、目に涙が滲みそうになるのも、ついでに誤魔化すのだった。

そんな不安な夜が続いたある日。
バイト終わりに、僕が今晩の夕飯は何が良い?なんて、メッセージを彼に送れば。

今日は外で食べよう、ここに来て。
という、メッセージと地図が送られてくるから。

いつもと違う展開に、僕の胸はざわついて。

どうかしたの?

と、震える指先に気が付かないフリをして、メッセージを打つと。

大事な話がある、とか。

あぁ、ついに、君と僕の関係に終わりがくるのかな。
……そんなの、嫌だな。

なんて、思うのに、わかったと返事をする僕。

地図にかかれたお店に向かう僕は、溢れてくる涙を堪えるのに必死だった。

でも。

お店に着いて、先に席に座っていた君から告げられたのは。

「誕生日おめでとう。これからもよろしくね」

そう、口調こそいつも通りを装う君だけど。
その声は震えているし、笑顔が固いから、それが可笑しくて、僕は思わず笑ってしまった。

君が夜な夜な出掛けていたのは、僕に誕生日プレゼントの指輪を買う為に、夜勤のバイトをしていたかららしい。

なんだ、そうだったのか。
良かった。
僕の方こそ、これからもよろしくね。



End

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