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春爛漫


いつもしかめっ面の彼。

せっかく席が隣同士になったんだから、そんな彼と仲良くなりたい、なんて思うのは。

「ねぇ、迷惑かな?」

「……何?それ、俺に言ってる?」

俺が席から、じっと、隣の席で本を読む彼を眺めて言えば。

本から視線だけを俺に向けた彼が、相変わらずのしかめっ面で、返してくれて。

それに気分を良くした俺は、思わず笑顔になる。

「そう、君に言ってるの。ねぇ、その本、面白くないの?」

だって、すっごく難しい顔してる。

「……面白くはないよ、興味深いだけ」

それって、どう違うんだろ?
なんて、俺の思ったことが、顔に出ていたのか。

「……別に、お前に理解してもらおうとは思ってない」

そう言って、視線を本の中へと戻してしまう彼に。

「嫌だ、俺のこと見て欲しい」

「は?」

戸惑いの声を上げた彼が、顔を俺へと向けてくる。
目を見開いた、その表情はしかめっ面ばかりの彼には珍しくて、あどけないから。

あぁ、可愛いな。

なんて、心の中で呟いていたつもりが、声に出ていたらしく。

え?と小さく声を漏らした彼の頬は、うっすら赤く染まっていて。

それは、校庭に咲く、桜の花びらを連想させる。

しかめっ面の彼の、別の一面は。
俺にとっての、春爛漫だった。


End

3/28/2025, 6:42:27 AM