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記憶


俺の記憶の中の君は、いつだって笑っていて。
明るくて、ちょっとだけお調子者の君。

そんな君が、楽しげに手を引いてくれるから、ちょっとだけネガティブ思考の俺でも、今まで笑って過ごせていたのに。

これが、幸せか、なんて。
俺らしくなく、浮ついた気持ちでいたのに。

「どうして、別れようなんて言うの?」

明るい君には似合わない、涙なんか流して。

「別れたいのは、お前の方だろ?」

とか、君が流れる涙を腕で拭いながら、続けて言うのに、俺は益々、混乱する。

俺が君と別れたい、だって?

そんなことある筈がない。
と、俺がすぐさま言えば。

昨日、女の子と楽しそうにしてたじゃん、なんて。
彼が泣きながら言う。

昨日?

俺が女の子と楽しげにする、なんて有り得ないんだけど。
でも、それで、思い当たるのは1つしかない。

「それ、俺の妹だよ」

そう、俺が真実を告げれば。
君の目がみるみる大きくなって、やがて、涙も引っ込んで。

「っ、それ、先に言ってくれよ!」

なんて、顔を真っ赤に染める。

あぁ、いつも笑顔で明るい君も、不安に涙する時があるんだな。

ごめんな、気が付かなくて。

俺ばっかり心配性なのかと思ってた。
自分のことで、精一杯だった、情けない俺。

こんな俺のことで、君は泣いてくれるのか。

「心配しなくても大丈夫だから」

俺が好きなのは、君だけだよ。
そう、俺が告げれば、君の真っ赤な顔はたちまち、明るくなって。

眩しい笑顔で。

「俺もお前が大好きだよ!」

あぁ、これでこそ、俺の1番記憶に残る、大好きな君だ。


End

3/26/2025, 6:49:20 AM