「ハッピーエンド、てなんやろな?」
「そうやなぁ。人生の最期の瞬間に『楽しかったなぁ』て思えたらハッピーエンドなんちゃう?」
「人生の最期かぁ。どんな状況やったらそう思えるやろな」
「んーベタやけど死ぬ瞬間、お前の顔見ながらやったらええな」
「それはお前はハッピーかも知らんけど、残された俺アンハッピーやん」
「んーほんなら…いや、お前が先に死ぬのは嫌やな。やっぱ見送るより見送られたい」
「ズルやん!」
「あ。わかった」
「なに?」
「どっちかがこの世に居らんくなっても、さみしないくらい、一緒の思い出作り続ければええんちゃう?」
「まぁ確かにあーだこーだ分からん未来に思い馳せるよりかは建設的やな」
「ほんなら今日は何しよか」
ハッピーエンドは一緒に作るもの。
【お題:ハッピーエンド】
俺の身長は176センチなので決して小柄ではない。
その俺よりも10センチ以上背の高いこの男。
肩幅もあるし、胸板も分厚いし、手もめちゃくちゃでかい。
外食した時に出されるコーヒーカップも、こいつが持つとデミタスカップのようになるのはいつ見ても笑う。
一緒に歩いていると大抵の老若男女がこいつに視線を送る。
この男、ガタイがいいだけではなくて顔もとんでもなくいいのだ。
それからさっきも言ったけれど、こいつの手はマジででかい。
しかも、だ。こいつの手はとても俺好みなのだ。どこがどう好みかは割愛する。
身体のパーツが全部デカいから、舌もでかくて、ゆっくり話さんと舌巻いてまうんよなぁ。
そんなことを言いながら、ゆったりと話す、耳触りのいい声。
極め付けはこの目。
目鼻立ちのはっきりしている、強い目をしているのに、いつも柔らかい印象が強い。
その目で見つめられながら強請られれば、大抵のことは言うことを聞いてやりたくなる。
「そんなに見つめてどしたん?」
おっと、無意識にじっと見つめてしまっていたようだ。
「そんな目で見つめられたら何でも言うこと聞いてあげたくなるんやけど?」
…俺の目にもそんな力があったとは。
【お題:見つめられると】
風呂上がり。軽くタオルドライした髪にヘアオイルをつける。濡れてるところにオイルをつけた今は、髪も落ち着いてくれているが、朝起きればまた…。日々のこととはいえ面倒に感じる日もあり、鏡を見ながらため息をつく。
「俺もヘアオイルが必要になるような毛量が欲しい」
いつの間に背後にきていたのか。背中から腹に腕を巻きつけ抱きつきながらそんなことを言うこの男。
本人は薄毛になるのではと恐怖に慄いているようだが、猫っ毛なだけで。触ると見た目通りふわふわしていて、手触りもいいし可愛い。寝癖がついてもすぐに直るのは羨ましさしかない。
真剣な表情で言うから笑ってはいけないと思いつつ。
「ヘアオイル使わんくても全然まとまるんやし、ええやん」
「んーーでもなんかヘアオイル使てる方がデキる男って感じせえへん?」
ナニソレかわいい。
今度は我慢できず吹き出してしまった。
「こちとら真剣なんやぞ!絶対ハゲたない!」
「大丈夫やて。髪やわこくて細いだけやん。ちゃんと手入れしとるし平気やろ」
俺からすると扱いやすい髪の毛で羨ましいけどな。
これがないものねだりなんかな。
ハゲるか大丈夫か、20年後が楽しみやな。
そう言ったらスパーンと尻を叩かれた。
【お題:ないものねだり】
普段から人当たりが良くて、にこにこ笑顔を振りまきながら、次々と他人を魅了していくひと。
他人の懐に入り込むのは最早天性か、それでも自分の大事なところには簡単には入らせないよう、常に一線を引いているひと。
そんなひとに、気がつくと腕を組まれ、肩を組まれ、背後から腹に腕を巻きつけ抱きつかれ。
自分はもしや特別な存在なのか…?
「何難しい顔してるん?」
は、と気づくとその人が、座っている自分に膝枕をしこちらを見上げている。
「俺ってお前にとって、特別な存在?」
つい思ったままを口にすると
「そらそうやろ」
可愛らしい八重歯を覗かせながらあっさり言うから、そうか、特別か、と。
心の奥深くに、じんわりと明かりが灯った気がした。
【お題:特別な存在】
気にしないふりしながらめちゃくちゃ気にしてたり、
怒ってへんと言いながら怒ってたり、
もうええよって言いながら許せなかったり、
すまんって言いながら悪いなんて微塵も思ってなかったり、
お前なんて好かん、とかも。
本音と真逆の言葉が口から出るたびにバカみたいやなって思う。
やって結局、お前にはいつだって全部本音が伝わってるんやもん。
【お題:バカみたい】