6.ありがとう、ごめんね
気を抜いたその瞬間、泣きたくなる。
君が消え去ったその途端、虚しくなる。
毎日毎日同じことの繰り返しで、なにも成長しない自分が腹立たしい。
いつもの日常がなんなのか分からなくなってしまった。
なんのために生きているのか。
人生に疲れてしまった。
そんな僕を元気づけるようによく君は言った。
「自分自身に感謝してね」
僕へ。
いつも一緒にいてくれてありがとう。
いつも色々なことをしてくれてありがとう。
当たり前のことが新鮮に思えます。
すべて君のおかげ。
本当にありがとう。
そして、いつも文句ばかりでごめんね。
考えてみると、「ありがとう、ごめんね」と本当に言える相手は自分自身くらいしかいない。
いつしか僕の前から消えてしまった君はどう?
あのとき君は泣いていたね。
「僕をひとりにしないで」
と。
大好きだよ。
いつも僕を元気づけてくれてありがとう。
いつも笑っていてくれてありがとう。
君のすべてにありがとう。
一緒にいてあげられなくてごめんね。
ひとりにさせてごめんね…。
いま、僕は君を迎えに行く。
5.部屋の片隅で
がらんとした僕の狭い部屋は
僕の狭い心を表しているようで
本当になにもない
虚しい部屋だ
机にベッド、物置棚
ありきたりの家具が並ぶ
一見普通に見えて
愛のない冷たい部屋だ
机のとなりに小さなごみ箱があった
丸められた紙で溢れかえって
僕の心の中を表しているようで
嫌なこと悲しいこと
全部ごみ箱に放り込んで
忘れようとしていた
忘れられなかった
でもね
僕の心にだって
隅っこのほうに愛が残っている
それは温かくて
なによりも気持ち良い
だから僕は
部屋の片隅で空想にふける
4.眠れないほど
―――何かに熱中してみたい。
眠れないほど興奮して、一晩中集中してみたい。
きっとそれは愉快で楽しいことなんだろうな。
そういうことが僕にもあればなあ。
ひとつのことに熱中できたらきっと他のことにも熱中できるようになる。
君が楽しそうに話すのを見て、僕は少し悲しくなる。
君が悪いんじゃない。
僕のただの妄想で、勝手に焦っているだけだ。
僕には熱中できるものがある君の背中がまぶしいんだ。
いつも僕の一歩前を行く君は、いつも僕を焦らせる。
君のその姿を追いかけてばかりの毎日だ。
でもそんな日々も好き。
君といる時間は心地よい。
風が吹いた。
僕はいま、君を見習うことに熱中している。
それは夜も眠れないほどに愉快なことだ。
3.夢と現実
想像力の余地もない、ピピピピという電子音が響いた。
一番嫌いな朝が来た。
さっきまでの心地よい空間はあっという間に何処かへ消え、見飽きた茶色いシミのある白い天井が見えた。
―――ああ、今日もいつもと同じか。
僕は小さくため息をついた。
現実逃避だとは分かっている。
でも夢の中で自由を求めたっていいじゃないか。
狭くて苦しい現実世界とは違って自分の想像でどうにもなる夢の世界は僕の人生の大きな支えだ。
夢を見ることまで諦めろと言うなら、僕は死ぬだろう。
2.さよならは言わないで
涙をこらえて彼女の後ろ姿を見送った。
ここで泣いたら彼女の姿が見えなくなってしまう。
どうせもう二度と会えないのだ。
泣いてなんかいられない。
あの美しい姿をしっかりと目に焼き付けて―――。
初めて出会った日、君は僕に言った。
「怖がりさんなのね」
そうだよ。
僕は並の女の子よりも怖がりで泣き虫だ。
嘲笑って馬鹿にすればいい。
でも君は口元に上品な笑みを浮かべて僕に囁いた。
「大丈夫。私が守ってあげる」
からっぽになった隣の家を見てなんだかとても虚しくなった。
君が僕に言った最後の言葉。
「さよならは言わないで」
もう二度と会えなくなる気がするから。
君はいつまでも僕の一番の親友だ。
いま、彼女の声が聞こえた気がした。