佐吉智明

Open App
11/4/2024, 1:06:50 PM

26.哀愁を誘う

雨が降っていた。
落ちつく音だ、と君が言った。
そうだ、君が僕を見た最後の時も、雨だったね。
懐かしいね、と僕が言った。
図々しい。分かっている。
でも君は僕を見てただ微笑む。
なんで、そんなに穏やかな顔ができるの?
なんで、そんなに優しくしてくれるの?
なんで、僕を恨まないの……。

僕は、君を助けられなかったのに。
見捨ててしまったのに。

恨んでくれたほうがどれほどましか。


あの日も雨だったな、と君は呟く。
蠟燭の火が揺れる。

 泣かないでよ、
 僕は君に助けられたんだ。

気休め言わないでよ。嘲笑ってくれよ、なあ。

 雨でよかったよ。
 涙も雨も分からないだろう?

 だから、雨が綺麗じゃなかったか。

 そうだろう?

雨はなお僕らの頭に降り注ぐ。
綺麗だ、と思った。思えた。
泣いているのが君にばれてないといいな。

だって泣きたいのは僕じゃないんだから。





蠟燭の火が静かに消えた。

7/17/2024, 11:43:50 AM

25.遠い日の記憶

あの日のことを思い出す
わたしのふるさとは燃えている
ひとのこころは殺されて
からだが宙に浮いている
道に転がる得体の知れない黒い塊
炎に吸い込まれた我らの魂
銃声がすべてを飲み込んだ

やつらがはは、と啼いていた
こどもがわぁ、と泣いていた

ひつじがめぇ、と鳴いていた

7/13/2024, 12:57:06 PM

24.優越感、劣等感

ただ、ただ、鬱陶しい。
わたしがどれほど醜い人間か、思い知らされる。

まわりの人々より少し上を行っては、調子に乗って、上にいることを誇り、高笑いをする。

まわりの人々より少し下を行っては、疑心暗鬼に陥って、恥じらいを忘れようと、嘲る。

美しいといい。
ただ、ただ、わたしが努力できるのなら。

7/5/2024, 12:23:04 PM

23.星空

黒いシルクに埋め込まれた金銀のボタン
星空を閉じ込めた美しい硝子
遠くから聞こえてきた
懐かしいオルゴールの音

星空を眺めて思い出す
君と過ごしたあの日々を
遠くから聞こえてきた
お別れの汽笛の音

金銀のボタンの埋め込まれた黒いシルク
硝子に閉じ込められた美しい星空
遠くから聞こえてきた君の足音
あれ
思い出せないな

7/1/2024, 11:35:00 AM

22.窓越しに見えるのは

私が窓越しに見るものは
毎日毎日違うもの
少しずつかわっている

私が窓越しに見るものは
一日一日の大切さ
少しずつ教わっている

私の窓越しに見えるのは
一日一度君の顔
きらきらまぶしく笑っている

今日窓越しに見えるのは
どんな顔の君だろう

Next