26.哀愁を誘う
雨が降っていた。
落ちつく音だ、と君が言った。
そうだ、君が僕を見た最後の時も、雨だったね。
懐かしいね、と僕が言った。
図々しい。分かっている。
でも君は僕を見てただ微笑む。
なんで、そんなに穏やかな顔ができるの?
なんで、そんなに優しくしてくれるの?
なんで、僕を恨まないの……。
僕は、君を助けられなかったのに。
見捨ててしまったのに。
恨んでくれたほうがどれほどましか。
あの日も雨だったな、と君は呟く。
蠟燭の火が揺れる。
泣かないでよ、
僕は君に助けられたんだ。
気休め言わないでよ。嘲笑ってくれよ、なあ。
雨でよかったよ。
涙も雨も分からないだろう?
だから、雨が綺麗じゃなかったか。
そうだろう?
雨はなお僕らの頭に降り注ぐ。
綺麗だ、と思った。思えた。
泣いているのが君にばれてないといいな。
だって泣きたいのは僕じゃないんだから。
蠟燭の火が静かに消えた。
25.遠い日の記憶
あの日のことを思い出す
わたしのふるさとは燃えている
ひとのこころは殺されて
からだが宙に浮いている
道に転がる得体の知れない黒い塊
炎に吸い込まれた我らの魂
銃声がすべてを飲み込んだ
やつらがはは、と啼いていた
こどもがわぁ、と泣いていた
ひつじがめぇ、と鳴いていた
24.優越感、劣等感
ただ、ただ、鬱陶しい。
わたしがどれほど醜い人間か、思い知らされる。
まわりの人々より少し上を行っては、調子に乗って、上にいることを誇り、高笑いをする。
まわりの人々より少し下を行っては、疑心暗鬼に陥って、恥じらいを忘れようと、嘲る。
美しいといい。
ただ、ただ、わたしが努力できるのなら。
23.星空
黒いシルクに埋め込まれた金銀のボタン
星空を閉じ込めた美しい硝子
遠くから聞こえてきた
懐かしいオルゴールの音
星空を眺めて思い出す
君と過ごしたあの日々を
遠くから聞こえてきた
お別れの汽笛の音
金銀のボタンの埋め込まれた黒いシルク
硝子に閉じ込められた美しい星空
遠くから聞こえてきた君の足音
あれ
思い出せないな
22.窓越しに見えるのは
私が窓越しに見るものは
毎日毎日違うもの
少しずつかわっている
私が窓越しに見るものは
一日一日の大切さ
少しずつ教わっている
私の窓越しに見えるのは
一日一度君の顔
きらきらまぶしく笑っている
今日窓越しに見えるのは
どんな顔の君だろう