26.哀愁を誘う
雨が降っていた。
落ちつく音だ、と君が言った。
そうだ、君が僕を見た最後の時も、雨だったね。
懐かしいね、と僕が言った。
図々しい。分かっている。
でも君は僕を見てただ微笑む。
なんで、そんなに穏やかな顔ができるの?
なんで、そんなに優しくしてくれるの?
なんで、僕を恨まないの……。
僕は、君を助けられなかったのに。
見捨ててしまったのに。
恨んでくれたほうがどれほどましか。
あの日も雨だったな、と君は呟く。
蠟燭の火が揺れる。
泣かないでよ、
僕は君に助けられたんだ。
気休め言わないでよ。嘲笑ってくれよ、なあ。
雨でよかったよ。
涙も雨も分からないだろう?
だから、雨が綺麗じゃなかったか。
そうだろう?
雨はなお僕らの頭に降り注ぐ。
綺麗だ、と思った。思えた。
泣いているのが君にばれてないといいな。
だって泣きたいのは僕じゃないんだから。
蠟燭の火が静かに消えた。
11/4/2024, 1:06:50 PM