5.部屋の片隅で
がらんとした僕の狭い部屋は
僕の狭い心を表しているようで
本当になにもない
虚しい部屋だ
机にベッド、物置棚
ありきたりの家具が並ぶ
一見普通に見えて
愛のない冷たい部屋だ
机のとなりに小さなごみ箱があった
丸められた紙で溢れかえって
僕の心の中を表しているようで
嫌なこと悲しいこと
全部ごみ箱に放り込んで
忘れようとしていた
忘れられなかった
でもね
僕の心にだって
隅っこのほうに愛が残っている
それは温かくて
なによりも気持ち良い
だから僕は
部屋の片隅で空想にふける
4.眠れないほど
―――何かに熱中してみたい。
眠れないほど興奮して、一晩中集中してみたい。
きっとそれは愉快で楽しいことなんだろうな。
そういうことが僕にもあればなあ。
ひとつのことに熱中できたらきっと他のことにも熱中できるようになる。
君が楽しそうに話すのを見て、僕は少し悲しくなる。
君が悪いんじゃない。
僕のただの妄想で、勝手に焦っているだけだ。
僕には熱中できるものがある君の背中がまぶしいんだ。
いつも僕の一歩前を行く君は、いつも僕を焦らせる。
君のその姿を追いかけてばかりの毎日だ。
でもそんな日々も好き。
君といる時間は心地よい。
風が吹いた。
僕はいま、君を見習うことに熱中している。
それは夜も眠れないほどに愉快なことだ。
3.夢と現実
想像力の余地もない、ピピピピという電子音が響いた。
一番嫌いな朝が来た。
さっきまでの心地よい空間はあっという間に何処かへ消え、見飽きた茶色いシミのある白い天井が見えた。
―――ああ、今日もいつもと同じか。
僕は小さくため息をついた。
現実逃避だとは分かっている。
でも夢の中で自由を求めたっていいじゃないか。
狭くて苦しい現実世界とは違って自分の想像でどうにもなる夢の世界は僕の人生の大きな支えだ。
夢を見ることまで諦めろと言うなら、僕は死ぬだろう。
2.さよならは言わないで
涙をこらえて彼女の後ろ姿を見送った。
ここで泣いたら彼女の姿が見えなくなってしまう。
どうせもう二度と会えないのだ。
泣いてなんかいられない。
あの美しい姿をしっかりと目に焼き付けて―――。
初めて出会った日、君は僕に言った。
「怖がりさんなのね」
そうだよ。
僕は並の女の子よりも怖がりで泣き虫だ。
嘲笑って馬鹿にすればいい。
でも君は口元に上品な笑みを浮かべて僕に囁いた。
「大丈夫。私が守ってあげる」
からっぽになった隣の家を見てなんだかとても虚しくなった。
君が僕に言った最後の言葉。
「さよならは言わないで」
もう二度と会えなくなる気がするから。
君はいつまでも僕の一番の親友だ。
いま、彼女の声が聞こえた気がした。
1.光と闇の狭間で
君の声が聞こえた気がした。
僕のことを呼んでいるようだった。
声の方向を向くとまぶしいほどの光が僕の視界に入ってきた。
目の前の世界が真っ白になって、妙な落ちつかなさを覚えた。
僕は静かに目を閉じた。
僕の心を乱すまばゆい光が不愉快だった。
もっと落ちついた気分でいたかった。
目を閉じれば深い闇の世界へ落ちることができる。
僕を包む漆黒の闇は、僕の目をその黒で塗りつぶす。
そう、光も闇も似たもの同士だ。
極端な色合いで僕から視界を奪っていく―――。
君と僕は違う世界の主人公。
光と闇の狭間で出会う。
君と僕の音色も声色も、天の上のことまでも。
理解し合う運命か。
別れゆく運命か。
誰も知らないことである。