「あせったよー」
「だってびっくりしちゃったんですもん」
ついさっき。
意を決して恋人にサプライズで渡したフェルト生地のジュエリーボックス。中に入っているのはダイヤのはまったプラチナの指輪で、もちろん彼女の左手の薬指のサイズに合わせたもの。
それを彼女に渡した直後、ピタリと止まって泣き出すから、てっきり嫌なんだと思った。
だから渡した直後に謝罪しながら取り上げようとしたのに、「嫌じゃない」と言われホッとしてしまった。
彼女に渡したジュエリーボックスから指輪だけを取り出し、彼女の左手の薬指にはめる。
彼女は口を開けたまま、きらきらした瞳で指輪がはまった左手を見つめていた。
「これからも一緒に歩いてくれる?」
俺の言葉にハッと意識が戻り、俺を見上げる。そして花が咲いたような満面の笑みを俺に向けてくれた。
「もちろんです!!!」
おわり
五〇二、旅は続く
恋人に気持ちを込めてプレゼントを贈った。
ダイヤモンドがはまったプラチナのリング。もちろん彼女の左手の薬指にピッタリのやつを。それがどう言う意味が分からない……はずないと思うんだ。
彼女はびっくりしたまま、呆然として動かない。
え。
まさか、嫌だったかな。
鼓動が早くなって、その音が耳にダイレクトに響く。
びっくりしているだけだと思うんだけれど、大丈夫だよね?
ばくんばくんと耳に直接聞こえる音ともに不安で視界から色が消えていくみたいだった。そして身体の底から震えが込み上げてくる。
そして、彼女の瞳から綺麗な雫がとめどなく流れ落ちて俺は更に驚いた。
「ご、ごめん、そんなに嫌だった!?」
慌ててフェルト生地のジュエリーケースを彼女の手から取ろうと手を伸ばすと、彼女は慌てて俺からジュエリーケースを遠ざける。
「嫌じゃないです!」
その声に引き寄せられて彼女を見つめる。
柔らかな表情じゃなくて、あまり見た事の無い、キリッとした強い眼で俺を見つめていた。
「嬉しいです、いちばん欲しかったものです。絶対に返しません!!」
彼女の大きな瞳から更にぽろぽろと涙が溢れ出す。そして俺を正面から抱きしめてくれた。
「私、ずっとずっと欲しかったものです」
その言葉を聞いて安堵し、身体中から力が抜けた。
「良かったぁ……」
俺も彼女を抱きしめ返した。
おわり
五〇一、モノクロ
「これ、あげる」
そう言って恋人に渡したのはフェルト生地て覆われた手のひらに収まるジュエリーケース。
彼女は嬉しそうにそれを受け取ってくれる。
パカリと開けるとダイヤがはまったプラチナの指輪が入っていた。
「これ……」
「受け取ってくれる?」
ちなみにサイズは事前に聞いています。
そりゃサプライズに出来たらいいけれど、指輪ってサプライズにしにくいでしょ。
色々な想いが重なって、彼女と家族になりたいって思ったんだ。
永遠なんて、ないけれど。
それを君に誓えるなら、この指輪を渡す意味って絶対にあると思うんだ。
おわり
五〇〇、永遠なんて、ないけれど
俺は恋人の涙にとても弱いです。
彼女は幼さが残ると見せかけてそんなことない。実は芯が強い。泣き虫だと本人は言うけれど泣く時はちゃんと理由がついてくる。
俺は、そんな彼女の涙に弱い。
彼女が俺の前で涙を見せる時は、俺が怪我をしてしまった時だから。
心配させてしまった時だから。
救急隊員として救助をしていれば危険が伴う時はある。気を抜いたり、予想していない時に上手く対処できなければ怪我だってする。
彼女の涙を見たくは無いから、怪我をしないように訓練を繰り返す。
何度も何度も。身体に染み込むまで何度も。
付き合い始めた頃にうっかりしたことで怪我をしてしまった。その時に、大きな瞳からこぼれ落ちる涙に肝を冷やした。
こんな泣かせ方は絶対にダメだと思った。
おわり
四九九、涙の理由
たまたまオシャレな喫茶店を見つけたので休憩がてら入って恋人と入ってみることにした。
入ってすぐにコーヒーのいい匂いが鼻をくすぐる。
テーブルに案内されて改めて周りを見てみると色々なコーヒーカップが飾られ、格好いいコーヒーメーカーから淹れたてのコーヒーの香りがしていた。
「もしかして、コーヒー専門店かな?」
「そうかも、ですね」
小さい声で囁きあう。と言うのも、俺も彼女も甘いものが好きで、あまりコーヒーは得意ではなかった。
メニューを見ていくと色々書いてあって、何が何だか分からなかった。
それを察したのか、店員さんが俺たちのテーブルに来て微笑みを向けてくれる。
コーヒーが詳しくないことや、あまり飲んだことがないことも伝えると、初心者にも飲みやすい豆で、カフェオレをおすすめしてくれた。
俺と彼女は店員さんのおすすめとケーキのセットで注文する。だってケーキもさー、自家製で作っているって聞いちゃうと食べたくなるでしょ?
彼女とふたり、コーヒーとケーキをのんびり待つ。
コーヒーを作る時のコポコポとした音、コーヒーの香り、ゆっくりとした音楽。椅子も柔らかくて座りやすいから、ぼんやりしていると眠ってしまいそうなくらいだ。
なんて言うか、五感全部で過ごしやすいを感じてしまう。
「これは……居心地良すぎて危険ですね」
「うん、俺寝そう」
彼女はくすくすと笑いながら縦に首を振ってくれる。
喫茶店の感想を言い合っているとカフェオレとケーキがテーブルにそれぞれ並んだ。
彼女と目を合わせて、カフェオレから口に含む。
ふたり同時に目が開く。
コーヒーってただ苦いって思っていたけれどそんなこと無かった。もちろん苦味はあるけれど、これくらいならいける。
なにより牛乳でまろやかで少し甘さを感じて本当に飲みやすい。
「美味しいね」
「はい。私、これなら飲めます!」
ケーキをつつきながら、カフェオレを楽しむ。
やばいな、この喫茶店。
居心地があまりにも良過ぎて、折角のカフェオレが冷めてしまいそう。
おわり
四九八、コーヒーが冷めないうちに