「お月さま、今日もきれいですねー」
彼女がソファから窓の隙間を覗き見上げていたのはまん丸お月さま、じゃなくて真っ二つにされた半分の月。
俺は恋人に手を差し伸べてソファから窓に誘う。彼女は俺の手を取って寄り添いふたりて月を見上げていた。
「そう言えば、この前は皆既月食もあったよ」
「え、見たんですか!?」
「うん。夜勤の日だったから、みんなで見た」
「えー、私も見たかったぁ!」
ぷうと頬をふくらませて抗議の視線を送ってよこす。俺は膨らんだ彼女の頬を人差し指で押すと、ふぅと息を吐く。
「いや、深夜だから絶対寝てたよー」
「そうなんですか?」
「そうだよ」
俺は彼女を後ろから抱き締めると、彼女も俺に体重を預けてくれた。
「じゃあ」
「ん?」
彼女の手が俺の手の上に重なる。
「今のお月さまを一緒に見ましょう」
おわり
四八六、君と見上げる月……
私、ずっと空っぽだったの。
人と交流が上手くできなくて、たくさん失敗しまくっていたらいつの間にか独りになっていた。
だから私を知らない人がいる場所に逃げたの。
そうしたらね、新しい人たちに出会えた。
家族のように思ってくれる人と出会えて、胸が苦しくなる人ほど大好きな人ができたの。
そうして気がついたら、私の心にあった空白には大切な人たちが居て、隙間なんて無くなっていた。
それどころか、大切な人たちはどんどん増えていって。今までにないほどに私の心に残る人ができました。
誰にでも優しい人だから、両想いになれないかもしれない。でも私自身の気持ちを押し付けることはしたくないから、彼と出会える偶然を待っていた。
家族のように大切にしてくれる人たちも居て、胸が苦しいけれど好きな人ができた。
もう、あの頃の私はいない。
ここに来て本当に良かった。
おわり
四八五、空白
へたばっていた恋人がようやく身体を起こせるようになったみたいで、ベッドにタオルケットの山が出来上がっていた。
「大丈夫?」
「うぅ、だいじょぶですぅ〜」
なんとも気の抜けた声だけれど、台風が通過していた時は頭痛と怠さで唸るのが精一杯だったみたいだから少しだけ安心した。
「暖かいスープ、作ろうか?」
そう伝えながらベッドの山の隣に座り寄り添う。すると彼女からも体重がかかって嬉しい。元々は気遣い屋さんの彼女が〝当たり前〟のように甘えてくれるようになっているんだから。
タオルケットの隙間から白い手が伸びて俺の腰に回される。
「んーん」
言葉と共にきゅっと抱き締められた。胸に彼女の額がすり寄せられる。それが嬉しくて胸が暖かい。
「そばにいればいい?」
「んっ!」
今までになく力強い声に安心して、俺からも彼女を優しく抱きしめた。
おわり
四八四、台風が過ぎ去って
目を覚ますと恋人が腕の中に収まっていて安心してしまう。
無防備な表情で眠っている彼女をどうしようもなく愛おしいと感じてしまい、起こさないように抱きしめた。
温かくて愛おしさが増す。
この都市に来たばかりの時には、こんなふうに大切な人ができるなんて思わなかった。
あの時はひとりきりで、色々迷っていた。
何をしていきたいかは分かっていなかったけれど、みんなの背中を支えられるようになりたかったんだ。
今の俺はひとりじゃない。
彼女とはいつか家族になれたらとこっそり思っている。
この都市に来て、それくらい願う人に出会えたんだ。
もう、ひとり戻れそうにない。
おわり
四八三、ひとりきり
俺と恋人はクリームソーダを作っていた。
彼女と仲良くなるきっかけはクリームソーダだから、この時間を大切にしている。
今日はちょっと凝ってみようと色々用意してみた。
俺のはいちごシロップを使った赤い炭酸で作る。バニラアイスはホワイトチョコで型どった細長い丸をふたつ刺す。
うさぎが乗った、いちごのクリームソーダの完成!
彼女は彼女で、好きな青色のラムネ味のシロップを使ってクリームソーダを作る。
アイスクリームには小さい丸いチョコレートを使ってパンダの形にしていた。
ふたつ耳として刺し、目のところに置くだけで結構パンダに見えるのは凄いなー。
これでパンダが乗ったラムネ味のクリームソーダの完成。
普段は気軽にメロンソーダで作るけれど、たまには凝ったクリームソーダを作るのも楽しいよね。
おわり
四八二、Red,Green,Blue