すっかり暑くなった夏。
見上げるのもウンザリするくらいの眩しくて強い光が差し込んで身体中から汗が吹き出る。
喉も乾くんだけれど、救急隊としては夏は仕事が忙しくて気力も減っていた。
休憩時間になってスマホを覗くと恋人からのメッセージが入っていた。
時間はそんなに経っていないみたいだ。
どうしたのかなと思いつつメッセージを覗く。
『今、近くにいます。休憩時間になったら教えてください』
近くにいる?
ああ、でも彼女の仕事的に近くで出張修理の依頼を受けたのかな?
彼女は車に限らず、修理のプロだ。
この都市での信用もしっかりあるから固定客もあると聞いてた。
近くにいるとは聞いても仕事中だったら困ると思って俺は返事を送る。
「今、休憩に入ったよっと」
それを送信すると、すぐにスマホが鳴る。
「わわっ」
俺はすぐに通話ボタンを押して彼女に応えた。
「どしたの?」
『あ、ちょこっとだけ入口に来られませんか?』
「え、いいよ。待っててね」
と彼女に返事をしながらも休憩室からスタッフ入口に向かった。
入口の自動ドアの先に彼女の姿が見えると、彼女も俺に気がついて、俺の大好きな笑顔を向けてくれる。そして同時にスマホの通話を終了させた。
「ごめんなさい」
「ううん、なにかあったの?」
「いえ、本当に近くまで来たから……」
そう言いながら小さいクーラーボックスを差し出した。俺は彼女に視線を送ると、彼女は満面の笑みでうなづいてくれる。
開けると中にはクリームソーダとシュークリームが入っていた。
「差し入れです。お仕事、お疲れ様です」
「うわ、ありがと、嬉しい!!!」
クリームソーダは俺の大好きなもの。
仕事も疲弊していたし、喉も乾いていたから彼女からの気遣いが嬉しくなった。
「あと、私がちょっと会いたかったんです」
ほんのりと頬を赤らめる彼女の笑顔がたまらなくて、胸がときめいてしまう。
「俺も会えて嬉しい」
抱きしめたい衝動にかられるけれど、外も暑いし人目を気になるから出来ない。
けれど、今日の帰りは彼女にお土産を買って帰ろうと思った。
おわり
四三七、オアシス
俺の恋人は特に苦手なことがある。
それは『別れ』。
本人の知らないところでここから離れてしまった人や死別してしまったことがある。
死別してしまった人のひとりは俺のことを弟だと可愛がってくれた人だった。
一緒に暮らしていくうちに、彼女のそれが思っていた以上に根深いものと知った。
ひとりで先に眠った時に見えた涙の跡が痛々しくて、俺の胸も痛んだ。
俺がドライなのかなと思ったんだけれど、〝失う〟ことへの恐怖感が強過ぎて少しだけ不安になる。
だって、俺の仕事は普通に危険が伴うから。
だから彼女の不安をどう拭ったらいいんだろうと考えて俺は結論を出した。
彼女は、どんな顔をしてくれるのだろうか。
家族になりたいと願うことを。
おわり
四三六、涙の跡
今年もこの季節だね。
暑さが増し増しになって、すっかり袖が短くなりました。
俺の恋人は白い半袖のシャツが本当に似合っていて目を引くんだ。凄く可愛い。
白い肌だから眩くて大好きなんだけど、彼女の生来の人懐っこさや笑顔がより心に刺さりやすい時期なんだよね。
だから半袖の季節は嬉しいんだけれど他の男の目を引くのは……嫌だ。とっても嫌だ。
今年は冷感用のパーカーでも買って渡そうかな。
おわり
四三五、半袖
「ねえ。もしも過去へと行けるならどこへ行きたい?」
そう彼に言われてギクリとしてしまう。
「過去に?」
「うん、ある?」
私は焦りを隠しつつ考えるふりをする。
でも私の答えは決まっているんだ。
「えっと、あの、私は今がいいです」
「そうなんだ?」
私は彼の手に自分の手を重ねて、そのまま額を乗せて顔を見られないようにした。
「あなたと一緒の今が、これからが大切だから」
しばらくすると彼の手が私の頭を撫でてくれる。優しく慈しみを感じる手が心地いい。
「俺も君と一緒の今が大事」
――
あのね。
私、本当は未来から過去(ここ)に来たの。
そんなことを言ったら、彼はどんな顔をするのかな。
おわり
四三四、もしも過去へと行けるなら
家でひとりになりたい時ってありません?
俺はある。
あ、違う。あった、だ。
前は気軽にひとりの時間を作れたんだけれど、今は恋人と同棲をしたから、家でひとりの時間を作るのは難しくなった。
心がすさんでいる時や、嫌な気持ちでいっぱいになった時なんかは正にそれ。
もちろん外でひとりの時間を作ればいいんだけれどさ、そうじゃないんだよね。
俺は彼女にそれを伝えたことがあるんだけれど、彼女は俺をひとりにはしてくれなかった。
それは物理的に。
俺がひとりになりたくて部屋で寝転がっていると、彼女は背中合わせに横になる。何も言わずにそばにいてくれた。
俺から声をかけるまで、俺に声をかけてこなかった。
でも背中から彼女の体温が伝わって。それが〝ひとりじゃないよ〟と言ってくれるようで。
胸が熱くなった。
そうやって、ひとりじゃないけれど〝ひとりの時間〟が持てるようになったんだ。
もちろん、それでも収まらない時だってある。
でも時間が消化してくれるんだ。ただ、その時間がどんどん短くなっていっただけ。
気がつくと、ひとりの時間が欲しい時は静かに彼女を抱っこさせてもらうようになった。
それで落ち着くようにどんどん変わっていったんだ。
これって愛だと思わない?
おわり
四三三、True Love