とあるきっかけで保護した子猫ちゃん。
保護する時にとっさに手を伸ばしてしまったので、一緒にいた恋人に注意を受けた。
だって彼は救急隊員。救助が彼の仕事だ。
つまり私より安全に子猫ちゃんを助けることができたの。実際に私が子猫ちゃんを助けようとした時に高い木に登ってしまって降りるのに困ってしまった。
そんな感じで助けた子猫ちゃん。
ひとまず保護して動物病院に連れていったけれど、私たちでは飼えない。と言うか、ペットオーケーなところに住んでいるわけじゃないから選択が無いのだ。
子猫ちゃんのために引っ越すわけにもいかないしね。彼と一緒に住んでいる以上、私ひとりの問題じゃない。
まだまだ小さい子猫ちゃん。
人懐っこい子猫ちゃんだから、きっとすぐに保護先が見つかるだろう。そうなったらこの子猫ちゃんとはお別れとなる。
「みゃあう」
小さな命は私にかまって欲しいと純粋な瞳で訴える。
手を伸ばして頭を撫でてあげると嬉しそうにノドをゴロゴロ鳴らして腕に絡みついた。
ふふ、可愛い。
すると彼の手が子猫ちゃんのお腹を撫でると、同じように喜びながら床を転がりまくる。
「可愛いねえ」
「はい、可愛いですねぇ」
〝またいつか〟
と、言う日はきっと来るだろう。
それは寂しいけれど、無責任なことはできない。
せめて子猫ちゃんの幸せになれる家族が見つかるまで、私たちの元でのんびり暮らしてくれたらいいな。
おわり
四三二、またいつか
星の名前を持つ彼女に想いを寄せて時間が経つ。
その気持ちを胸の奥にしまって見ないふりをするのに限界を感じていた。
彼女の声に耳が惹かれる。
彼女の笑顔に身体の内側からが熱くなる。
彼女の仕草に胸の奥から焦がれる。
視線が合うと苦しくて仕方がないんだ。
俺は夜空を見上げてて問いかける。
「俺は……君を追いかけていい?」
おわり
四三一、星を追いかけて
木の上にいたにゃんこ。
恋人が助けてくれた。
視界に入って〝助けたい〟という気持ちが先に動いてしまったようで、俺が止めたけれど助けに行ってしまった。
優しい彼女なんだけれど、あの高さでにゃんこを抱っこして降りるのは難しいと思っていたんだよね。
そして案の定、降りられなくなったので彼女に飛んでもらって俺が受け止めた。
「もう。俺、救急隊員だよ?」
「ごめんなさい」
犬の耳が付いていたらヘタっているのが見えるくらいへこんでいる。顔を見上げてくれないから申し訳なさがあるのかな。
俺は彼女の頭を撫でる。彼女の柔らかい髪の毛が俺の手を掠めて心地好い。
そしてゆっくりと彼女が俺を見上げ、ふわりと微笑んだ。
「もっと自分を大事にしてね」
「はい」
「みゃあぁ」
彼女の返事に合わせて、にゃんこが小さく鳴いた。
「あ、そうだ。でも子猫……」
にゃんこは彼女の腕の中でぐるぐると喉を鳴らした。怯える様子もなく、彼女に懐いている様子だ。
「にゃんこ、無事だね」
「はい」
地味ににゃんこを保護することがあるから、俺は彼女に視線を送る。彼女も俺に視線を向けてくれていて、視線が絡み合った。
これは、なんとなくこの先の行動はお互い分かっている。
このにゃんこも生きているんだ。
「動物病院、行きますか?」
「そうだね」
彼女の言葉に俺はスマホを取り出して、ここ何回かお世話になっている動物病院に連絡する。
彼女が助けたにゃんこ。
生きて欲しいからね。
おわり
四三〇、今を生きる
恋人の視線が微妙に痛い。
「だから言ったのにー」
ほんの少し頬をふくらませていた。
と、言うのもお散歩していたら、上からなにか聞こえたから足を止めて顔を上げた。
そこには子猫ちゃんが木に登っていて、どうやら降りられなくなっていた。
私は彼の静止を聞かずに登ってしまった。
そうしたら子猫ちゃんが腰を引いてしまい、怖がらせないように私ももう少し登った。
何とか怯えさせずに子猫ちゃんを抱っこして周りを見渡すと思ったより高くて。子猫ちゃんを抱っこしたまま降りるのはかなり難しい……かも。
ど、どうしよう。
私の表情を見た彼がジト目を送ってきた。
うぅ……。
彼が私を止めたのは、こうなると察していた。何より彼のお仕事は救急隊だから私より彼の方が適任だったのに私が彼の声を聞かずに登ってしまった。
彼は眉間のシワを寄せていて、深い息を吐いた。
「もう、だから俺止めたのに」
彼は一度うつむいてから、両手を広げて私に顔を向けてくれた。その表情は私の大好きな太陽みたいな笑顔。
眩い表情に胸が高鳴る。
「受け止めるから、飛んで」
おわり
四二九、飛べ
あと一ヶ月で特別な日が来る。
それは恋人の誕生日。
色々な人から愛されている人だから、当日は会社人達からもお祝いしてくれると思うんだ。だから当日に私が彼を独占するのは難しいかもしれない。
ここは私も彼も同じ考えで、やっぱりここに来た時にお世話になった人達をどうしても優先したい気持ちがある。
だから私も当日に独占できなくても仕方がないと思った。寂しさがないと言えば嘘になるけれど、多分私もそうしちゃうから。
だから、次の休みは彼の好きなものを用意したいんだ。
食べものもそうだけれど、プレゼントも考えないと。
ふたりだけのバースデーパーティを開催するんだ。
おわり
四二八、special day