木の上にいたにゃんこ。
恋人が助けてくれた。
視界に入って〝助けたい〟という気持ちが先に動いてしまったようで、俺が止めたけれど助けに行ってしまった。
優しい彼女なんだけれど、あの高さでにゃんこを抱っこして降りるのは難しいと思っていたんだよね。
そして案の定、降りられなくなったので彼女に飛んでもらって俺が受け止めた。
「もう。俺、救急隊員だよ?」
「ごめんなさい」
犬の耳が付いていたらヘタっているのが見えるくらいへこんでいる。顔を見上げてくれないから申し訳なさがあるのかな。
俺は彼女の頭を撫でる。彼女の柔らかい髪の毛が俺の手を掠めて心地好い。
そしてゆっくりと彼女が俺を見上げ、ふわりと微笑んだ。
「もっと自分を大事にしてね」
「はい」
「みゃあぁ」
彼女の返事に合わせて、にゃんこが小さく鳴いた。
「あ、そうだ。でも子猫……」
にゃんこは彼女の腕の中でぐるぐると喉を鳴らした。怯える様子もなく、彼女に懐いている様子だ。
「にゃんこ、無事だね」
「はい」
地味ににゃんこを保護することがあるから、俺は彼女に視線を送る。彼女も俺に視線を向けてくれていて、視線が絡み合った。
これは、なんとなくこの先の行動はお互い分かっている。
このにゃんこも生きているんだ。
「動物病院、行きますか?」
「そうだね」
彼女の言葉に俺はスマホを取り出して、ここ何回かお世話になっている動物病院に連絡する。
彼女が助けたにゃんこ。
生きて欲しいからね。
おわり
四三〇、今を生きる
7/20/2025, 2:45:32 PM