「ねえ。もしも過去へと行けるならどこへ行きたい?」
そう彼に言われてギクリとしてしまう。
「過去に?」
「うん、ある?」
私は焦りを隠しつつ考えるふりをする。
でも私の答えは決まっているんだ。
「えっと、あの、私は今がいいです」
「そうなんだ?」
私は彼の手に自分の手を重ねて、そのまま額を乗せて顔を見られないようにした。
「あなたと一緒の今が、これからが大切だから」
しばらくすると彼の手が私の頭を撫でてくれる。優しく慈しみを感じる手が心地いい。
「俺も君と一緒の今が大事」
――
あのね。
私、本当は未来から過去(ここ)に来たの。
そんなことを言ったら、彼はどんな顔をするのかな。
おわり
四三四、もしも過去へと行けるなら
家でひとりになりたい時ってありません?
俺はある。
あ、違う。あった、だ。
前は気軽にひとりの時間を作れたんだけれど、今は恋人と同棲をしたから、家でひとりの時間を作るのは難しくなった。
心がすさんでいる時や、嫌な気持ちでいっぱいになった時なんかは正にそれ。
もちろん外でひとりの時間を作ればいいんだけれどさ、そうじゃないんだよね。
俺は彼女にそれを伝えたことがあるんだけれど、彼女は俺をひとりにはしてくれなかった。
それは物理的に。
俺がひとりになりたくて部屋で寝転がっていると、彼女は背中合わせに横になる。何も言わずにそばにいてくれた。
俺から声をかけるまで、俺に声をかけてこなかった。
でも背中から彼女の体温が伝わって。それが〝ひとりじゃないよ〟と言ってくれるようで。
胸が熱くなった。
そうやって、ひとりじゃないけれど〝ひとりの時間〟が持てるようになったんだ。
もちろん、それでも収まらない時だってある。
でも時間が消化してくれるんだ。ただ、その時間がどんどん短くなっていっただけ。
気がつくと、ひとりの時間が欲しい時は静かに彼女を抱っこさせてもらうようになった。
それで落ち着くようにどんどん変わっていったんだ。
これって愛だと思わない?
おわり
四三三、True Love
とあるきっかけで保護した子猫ちゃん。
保護する時にとっさに手を伸ばしてしまったので、一緒にいた恋人に注意を受けた。
だって彼は救急隊員。救助が彼の仕事だ。
つまり私より安全に子猫ちゃんを助けることができたの。実際に私が子猫ちゃんを助けようとした時に高い木に登ってしまって降りるのに困ってしまった。
そんな感じで助けた子猫ちゃん。
ひとまず保護して動物病院に連れていったけれど、私たちでは飼えない。と言うか、ペットオーケーなところに住んでいるわけじゃないから選択が無いのだ。
子猫ちゃんのために引っ越すわけにもいかないしね。彼と一緒に住んでいる以上、私ひとりの問題じゃない。
まだまだ小さい子猫ちゃん。
人懐っこい子猫ちゃんだから、きっとすぐに保護先が見つかるだろう。そうなったらこの子猫ちゃんとはお別れとなる。
「みゃあう」
小さな命は私にかまって欲しいと純粋な瞳で訴える。
手を伸ばして頭を撫でてあげると嬉しそうにノドをゴロゴロ鳴らして腕に絡みついた。
ふふ、可愛い。
すると彼の手が子猫ちゃんのお腹を撫でると、同じように喜びながら床を転がりまくる。
「可愛いねえ」
「はい、可愛いですねぇ」
〝またいつか〟
と、言う日はきっと来るだろう。
それは寂しいけれど、無責任なことはできない。
せめて子猫ちゃんの幸せになれる家族が見つかるまで、私たちの元でのんびり暮らしてくれたらいいな。
おわり
四三二、またいつか
星の名前を持つ彼女に想いを寄せて時間が経つ。
その気持ちを胸の奥にしまって見ないふりをするのに限界を感じていた。
彼女の声に耳が惹かれる。
彼女の笑顔に身体の内側からが熱くなる。
彼女の仕草に胸の奥から焦がれる。
視線が合うと苦しくて仕方がないんだ。
俺は夜空を見上げてて問いかける。
「俺は……君を追いかけていい?」
おわり
四三一、星を追いかけて
木の上にいたにゃんこ。
恋人が助けてくれた。
視界に入って〝助けたい〟という気持ちが先に動いてしまったようで、俺が止めたけれど助けに行ってしまった。
優しい彼女なんだけれど、あの高さでにゃんこを抱っこして降りるのは難しいと思っていたんだよね。
そして案の定、降りられなくなったので彼女に飛んでもらって俺が受け止めた。
「もう。俺、救急隊員だよ?」
「ごめんなさい」
犬の耳が付いていたらヘタっているのが見えるくらいへこんでいる。顔を見上げてくれないから申し訳なさがあるのかな。
俺は彼女の頭を撫でる。彼女の柔らかい髪の毛が俺の手を掠めて心地好い。
そしてゆっくりと彼女が俺を見上げ、ふわりと微笑んだ。
「もっと自分を大事にしてね」
「はい」
「みゃあぁ」
彼女の返事に合わせて、にゃんこが小さく鳴いた。
「あ、そうだ。でも子猫……」
にゃんこは彼女の腕の中でぐるぐると喉を鳴らした。怯える様子もなく、彼女に懐いている様子だ。
「にゃんこ、無事だね」
「はい」
地味ににゃんこを保護することがあるから、俺は彼女に視線を送る。彼女も俺に視線を向けてくれていて、視線が絡み合った。
これは、なんとなくこの先の行動はお互い分かっている。
このにゃんこも生きているんだ。
「動物病院、行きますか?」
「そうだね」
彼女の言葉に俺はスマホを取り出して、ここ何回かお世話になっている動物病院に連絡する。
彼女が助けたにゃんこ。
生きて欲しいからね。
おわり
四三〇、今を生きる