木の上にいたにゃんこ。
恋人が助けてくれた。
視界に入って〝助けたい〟という気持ちが先に動いてしまったようで、俺が止めたけれど助けに行ってしまった。
優しい彼女なんだけれど、あの高さでにゃんこを抱っこして降りるのは難しいと思っていたんだよね。
そして案の定、降りられなくなったので彼女に飛んでもらって俺が受け止めた。
「もう。俺、救急隊員だよ?」
「ごめんなさい」
犬の耳が付いていたらヘタっているのが見えるくらいへこんでいる。顔を見上げてくれないから申し訳なさがあるのかな。
俺は彼女の頭を撫でる。彼女の柔らかい髪の毛が俺の手を掠めて心地好い。
そしてゆっくりと彼女が俺を見上げ、ふわりと微笑んだ。
「もっと自分を大事にしてね」
「はい」
「みゃあぁ」
彼女の返事に合わせて、にゃんこが小さく鳴いた。
「あ、そうだ。でも子猫……」
にゃんこは彼女の腕の中でぐるぐると喉を鳴らした。怯える様子もなく、彼女に懐いている様子だ。
「にゃんこ、無事だね」
「はい」
地味ににゃんこを保護することがあるから、俺は彼女に視線を送る。彼女も俺に視線を向けてくれていて、視線が絡み合った。
これは、なんとなくこの先の行動はお互い分かっている。
このにゃんこも生きているんだ。
「動物病院、行きますか?」
「そうだね」
彼女の言葉に俺はスマホを取り出して、ここ何回かお世話になっている動物病院に連絡する。
彼女が助けたにゃんこ。
生きて欲しいからね。
おわり
四三〇、今を生きる
恋人の視線が微妙に痛い。
「だから言ったのにー」
ほんの少し頬をふくらませていた。
と、言うのもお散歩していたら、上からなにか聞こえたから足を止めて顔を上げた。
そこには子猫ちゃんが木に登っていて、どうやら降りられなくなっていた。
私は彼の静止を聞かずに登ってしまった。
そうしたら子猫ちゃんが腰を引いてしまい、怖がらせないように私ももう少し登った。
何とか怯えさせずに子猫ちゃんを抱っこして周りを見渡すと思ったより高くて。子猫ちゃんを抱っこしたまま降りるのはかなり難しい……かも。
ど、どうしよう。
私の表情を見た彼がジト目を送ってきた。
うぅ……。
彼が私を止めたのは、こうなると察していた。何より彼のお仕事は救急隊だから私より彼の方が適任だったのに私が彼の声を聞かずに登ってしまった。
彼は眉間のシワを寄せていて、深い息を吐いた。
「もう、だから俺止めたのに」
彼は一度うつむいてから、両手を広げて私に顔を向けてくれた。その表情は私の大好きな太陽みたいな笑顔。
眩い表情に胸が高鳴る。
「受け止めるから、飛んで」
おわり
四二九、飛べ
あと一ヶ月で特別な日が来る。
それは恋人の誕生日。
色々な人から愛されている人だから、当日は会社人達からもお祝いしてくれると思うんだ。だから当日に私が彼を独占するのは難しいかもしれない。
ここは私も彼も同じ考えで、やっぱりここに来た時にお世話になった人達をどうしても優先したい気持ちがある。
だから私も当日に独占できなくても仕方がないと思った。寂しさがないと言えば嘘になるけれど、多分私もそうしちゃうから。
だから、次の休みは彼の好きなものを用意したいんだ。
食べものもそうだけれど、プレゼントも考えないと。
ふたりだけのバースデーパーティを開催するんだ。
おわり
四二八、special day
ソファに横になる恋人。
暑いと言うのにカーテンも閉めずに揺れる木陰の中で眠っていた。
救急隊のお仕事をしてるから、この季節は特に忙しいみたい。だから休みの日くらいはゆっくり眠らせてあげたい。
顔周りは木陰の中とはいえ、窓から日差しが降り注いでいる。
このままでは暑くて寝苦しいかもしれないから、私はカーテンを閉めようと立ち上がった。
ゆっくり休んでね。
おわり
四二七、揺れる木陰
眩い太陽の元、プールで恋人とのデート。
恋人の水着姿も太陽より眩くて、本当に目がつぶれそうです。
スタイルの良い彼女の水着姿を他の男共に晒すのは嫌過ぎるんだけど、今年の水着は胸元に大きなヒラヒラが付いたオフショルダーのワンピースで余り気にならない。
何より彼女は白が似合うから、とてもとても可愛いです。
尊くて彼女に向かって両手を合わせていると怪訝な顔の彼女が首を傾げた。
「どうしたんですか?」
「あ、いや。可愛いからありがたくて」
彼女がほんのりと頬を赤らめてから眉を八の字にして笑う。
うーん、可愛い。
彼女の愛らしさに頷いているとグラりと視界がゆがむ。
熱中症?
このまま倒れるのはまずいと思いながら視界が暗くなった。
――
浮遊感に驚いて、身体中がビクリと動いて目が覚めた。のと同時に俺は床に落ちる。
「大丈夫ですか!?」
周りを見回すと家のリビング。隣にはソファがあるから、ソファから盛大に落ちたのかもしれない。
しかもよく見ると、ソファにはカーテンの隙間から日差しが入ってきる。もしかしたら俺は光から逃げようとして落ちたのかもしれない。
彼女も慌てた顔で俺のそばに来てくれた。
じゃあ、あの水着とデートは……夢?
「あの、大丈夫ですか?」
「あ、うん。大丈夫ソファから落ちたみたい」
彼女に笑顔を向けると、ホッとした顔をしてくれる。
「心配させて、ごめんね」
「いいえ。怪我していませんか?」
俺は身体を動かして痛みがあるか確認をしてみるけれど、特に痛みは感じられなかった。
「大丈夫。痛みはなさそう」
「良かった」
ふわりと微笑んでくれる彼女を見て、夢の中で見た彼女の笑顔を思い出す。
だから俺は彼女に、こう誘った。
「今年はプール。行く?」
おわり
四二六、真昼の夢