とある恋人たちの日常。

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6/18/2025, 12:54:59 PM

 
 ちょっとしたイタズラなの。
 去年の冬に毛糸を使って作ったものの余りを整理していた時に思いついて、眠っている彼の所に足を向けた。
 
 寝室のベッドでしっかり眠っている彼を見て頬が緩んでしまう。
 普段と表情が違うのが良いの。私しか知らない気の抜けた表情。
 
 私は嬉しくて、持っていた毛糸を引っ張り出し、二メートルほどで切った。そして、私の小指に巻いてから彼の小指に蝶々結びをする。それは赤い毛糸。
 絡まないようにゆったりと伸ばして広げてから、彼の横に寝転がった。
 
「ふふ」
 
 起きたらどんな顔をするかな。
 怒られるとは思わないけれど、びっくりするかな?
 苦笑いしちゃうかな?
 
「起きるの、楽しみ」
 
 そんなことを考えていたら、私もいつの間に眠ってしまっていた。
 
 
 
おわり
 
 
 
三九八、糸

6/17/2025, 2:22:54 PM

 
 この都市に来て、大切な人が増えてしまった。
 大事な人を作りたくなかったのに。
 
 おっちょこちょいな彼女から目が離せなくなって、気がついたら目で追うようになってた。
 その笑顔に癒しを求める日が増えていたんだ。
 
 自分の気持ちを押し付けてくる人達がいて、そこには俺の意思や気持ちを見てくれなかった。
 疲れて疲弊した時、偶然会った彼女の笑顔か嬉しくて、俺の心のモヤが晴れていく。
 
 彼女の働いているお店を遠巻きに見かけると、お客さんと笑顔で話している姿に胸がチクリとした。
 
 この気持ちを育てたくないのに。
 届かないかもしれないのに。
 
 俺の意思を無視して想いは育っていくんだ。
 
 ねえ。
 手を伸ばしても……いい?
 
 
 
 おわり
 
 
 
三九七、届かないのに

6/16/2025, 2:50:10 PM

 
 まだ彼女と恋人になる前。
 俺は一人になりたくてバイクを飛ばして、知らない道を走り抜け知らない街の知らない喫茶店に入った。
 
 そこで出会ったクリームソーダがとても美味しくて感動したんだ。
 
 ――
 
「おかしいなぁ」
 
 俺は頼りない記憶の地図を広げながら車を走らせていた。
 
「この辺だったかなぁ」
 
 隣に座っているのは、ようやく想いを伝えて叶った恋人。彼女はくすくす笑いながら小さく囁いた。
 
「ゆっくりでいいですよ。無理しなくてもいいですし」
「やだ。あのクリームソーダを飲んで欲しいの。うーん、多分この辺だと思うんだよ……」
 
 俺はあの時に行った喫茶店を探しながら掠れた記憶を辿っていた。
 
 ある程度の場所は法定速度を守りつつ、徐行しながら喫茶店を探す。
 
 いやー、あの時はこの都市に来たばかりだし、無我夢中だったからなー。
 
 俺は何度目かの角を曲がり、路駐ができそうな場所を見つけて路肩に車を停めた。
 
「こっちの方にバイクを飛ばしたと思うんだよなー」
「ふふ」
「あ、今更だけれど連れ回してごめん。先に調べておけば良かった」
 
 自己嫌悪で項垂れていると彼女は優しく笑ってくれる。
 
「いいんですよー。私はこうやっている時間も楽しいですから」
 
 車を停めているから、しっかり彼女を見つめると本当に嬉しそうに俺を見つめてくれていた。
 凄く、凄く綺麗で胸が熱くなるほどの笑顔で。
 
「俺はあの喫茶店に連れて行きたいなー」
「なら、のんびり探しましょう」
「無駄な時間になっちゃうかもよ?」
「私は無駄な時間だなんて思っていませんよ?」
 
 くすくすと笑う彼女。この微笑みには勝てないし、ずっと見ていたい。
 
 俺は記憶の地図を頑張って掘り起こそうと、また車を走らせた。
 
 
 
おわり
 
 
 
三九六、記憶の地図

6/15/2025, 2:20:41 PM

 
 私には宝物のマグカップがある。
 前に恋人とふたりで行った旅行で、手作り体験をしてマグカップを作った。
 彼が私のために、私は彼のために作ったのだけれど、ふたりとも自分たちをイメージした動物が寄り添っていた。
 出来上がりを見た時は笑ってしまったけれど、大切に使っている。
 
 絵の善し悪しも味ってやつです。
 
 いつか彼と結ばれて、家族が増えたらふたりでその子の分も作りに行きたいかも。
 まだ気は早いかもしれないけれど、そうなったら嬉しいな。
 
 そんな世界でたったひとつしかないペアマグカップ。
 
 
 
おわり
 
 
 
三九五、マグカップ

6/14/2025, 2:40:52 PM

 
 俺がこの都市に来なければ、どうなっていたんだろう。
 もしも君がこの都市に来なければ、どんな未来だったのだろう。
 
「ばぁぱ」
 
 どすんとお腹に重さが加わる。深く入らなかったからまだ良かった。入ってたら悶絶していたな。
 お腹には俺の……俺たちの天使の大きな瞳が俺を捉えていた。
 
 愛しい彼女がこの都市に来ていなかったら。
 俺がこの都市に来ていなかったら。
 
 この愛らしい天使とは出会えていないんだ。
 
「ぱぁぱ?」
 
 俺があまり反応しなかったからか、天使が不思議そうな顔をして首をかしげている。
 
 俺は天使の身体を抱き寄せてから、頬寄せてグリグリと頬ずりした。
 
「きゃあっ」
 
 キャッキャと楽しそうに笑い声をあげてくれる。
 ああ、本当に可愛い。
 
「どうかしましたか?」
 
 愛しい彼女が三人分の飲み物をトレーに乗せて持って来てくれると、お腹に乗っていた天使が身体を起こして彼女の元へ向かってしまった。
 
 ああ、こんな気軽に離れられちゃうと、パパは寂しいですよー。
 
 彼女はテーブルに飲み物を置くと、天使を抱きしめる。
 
 もしも……なんて、考えること自体意味がないな。
 
 俺は愛しい家族を見守りながら、そんなことを考えた。
 
 
 
おわり
 
 
 
三九四、もしも君が

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