恋か、愛か、それとも――
そんな気持ちで迷うなんて思わなかった。
怪我しているところを助けた彼女。困ったように笑う姿が可愛い子だなと、なんとなく思った。
色々な出会いがあって、心が疲弊しまくった時に彼女に会う事が多かった。彼女と話しているうちに自分の心が軽くなっていて、いつしか彼女へ視線を送るようになっていく。
彼女の笑顔は、まるで暗闇の中に差し込む月の光のような透き通っていて心が惹かれるんだ。
この気持ちは恋か、愛か、それとも――
俺はゆっくりと瞳を開いた。
恋は、愛になって。
それから?
おわり
三八四、恋か、愛か、それとも
夕飯が終わった後のまったりタイム。
今日の片付け当番は私だけれどギリギリまで手伝ってくれた後に恋人の彼は珍しくソファに横になってスマホをいじり倒している。
私はソファの前の床に体育座りをして彼が空くのを待った。
五分、十分。
気がついたら三十分、放置された。
私の頬は自然と膨らむ。
そりゃ一緒に住んでいて、毎日顔を合わせているからふたりの時間を過ごしているんだけれど。
ひとりの時間を邪魔しちゃダメとは思うけれど。
さみしいー!!
私は彼のお腹にアゴを乗せて彼を見つめる。
「かまって欲しいですー」
彼はスマホから私を一瞬見つめる。けれどすぐにスマホへ視線が戻されてすいすいと操作に戻り、無気力な声が響く。
「あとでね」
私、まだ放置されちゃうの?
いや、ひとりの時間は大切だよ。私自身もひとりの時が必要な時があるからそれは分かるよ。
でもふたりでいる時間だよ。
そんなことを考えていると頬を膨らませてしまう。
「あとでかまってくれますか?」
「あとでね」
そしてまたスマホに彼の意識が戻っていく。
「約束してくれます?」
「約束するよ」
「約束ですよ!」
「うん」
私は彼のお腹に顔を乗せてグリグリと横に首を振った。
「約束ですからねー!!」
「うあっははははは! ちょ、待って。くすぐったい」
彼は反射で動き、足をバタバタさせる。スマホを持っていた腕も大きく動いていた。
「あー!!」
彼の大きな声にびっくりして顔を上げると、振っていた頭を止めてしまった。
彼はお腹を抑えながら、スマホをまた操作する。そして〝ポコン〟とスマホが小さく鳴った。
「なんの音です?」
思わず首を傾げて彼を見つめると、苦笑いして起き上がってから普通に座り直す。そして、大好きな太陽のような笑顔とスマホの画面を私に向けてくれた。
そこには彼のお腹に顔を乗せて頬を膨らませる私が映っている。みるみるうちに彼は悪い笑顔に変わっていった。
「撮ってたんですか?」
「うん、可愛かったから」
彼はスマホを置いて私を抱き寄せる。
「約束、まもるよ」
おわり
三八三、約束だよ
ポツポツと傘に当たる雨が音楽を奏でている。
粒が大きいのか、音が思ったよりも大きくて、都会の喧騒より雨音の方が耳に入った。
駐車場からお店までの短い距離だから、恋人とふたり相合傘でお店へ向かう。
彼を見つめると雨が当たっているのか、水気を帯びて、その……セクシーだ。
彼に目を奪われているけれど、自分がそんなに濡れていないことに気がつく。よく見れば彼の肩も濡れていた。
「傘、もう少しそっちに寄せてください」
「濡れて風邪ひいたら嫌だからダメ」
間髪入れずにそんな返答をされてしまい、私は頬をふくらませる。すると彼は、私の肩を抱き寄せて額に暖かいものが当たり、小さなリップ音が私の耳に入った。
私は額を抑えて彼を見上げると、ほんの少し頬が紅く見える。
「濡れた姿を他の男に見られたくないからダメ」
その声は傘の中にしか聞こえないくらい小さく、周りの雨音は大きかった。
私は彼の独占欲に胸がときめいてしまう。
そして、彼の照れた顔は私だけのものだ。
傘の中と言う小さな世界の、私達だけの秘めゴト。
おわり
三八二、傘の中の秘密
べったりとした空気が気持ち悪くて、身体に張り付いたような湿気は心を重くなるな。
雨はバイク乗るのが危なくなるし、修理が多くなるから嫌だ。
修理屋の私としては仕事が増えるの。それはいいけれど、それって事故ってるってことでしょ。
救急隊で働いている恋人も「雨の日は怪我人が多い」とは言っていた。
「みんな安全運転して欲しいな」
そんなことを思いながら、店先に出て空を覗くと曇天がまだ広がっていた……けれど、遠くから鮮やかな色が見えていた。
雨、あがってほしいな。
誰も怪我をしないでくれたらいい。そんなことを思いながら私は仕事に戻った。
おわり
三八一、雨上がり
俺の恋人は可愛い人です。
彼女の眉が八の字になって俺を見上げられると、どうしても負けてしまうんだ。
時にはとめなきゃいけない時もあるんだけれど、惚れた弱みと言いますか、無理なんです。
表情や仕草に幼さと無垢さを残す彼女なだけに、あんな曇りなき眼で見られたら断るなんてできないんだよ。
「可愛いのズルい!!」
一度、彼女にそう言ったことがある。
すると彼女は少し考えてから、ふわっと微笑んでくれた。
「それなら、あなたもズルいですよ?」
俺は何を言っているか分からない。
俺の表情を読み取ったのか、俺の頬に手を乗せてから口を開いた。
「私から見たら、あなたが可愛くてズルいです」
少しだけ困った笑顔で俺を見つめる。俺が心の底から弱い、愛しい彼女の表情。その視線は俺を捉えていて、これは彼女の思いも俺と同じ……なのかな?
そう気がつくと、なんだが勝ち負けなんてどうでもいいやって気持ちになった。
おわり
三八〇、勝ち負けなんて