以前、恋人に何か欲しいものはあるかと聞かれた時、散々悩んでラブレターと答えたことがあった。
正直、何か欲しいと言うより彼が選んでくれるならなんでも嬉しいんだよね。だから無理に何かって言われてもちょっと困った。
どの状態でくれるのか分からないけれど、聞かれてから結構経っているなぁ……。
いつくれるかな。
それとも恥ずかしくてくれないかな?
誕生日はもう過ぎたから……どのタイミングでくれるのか、少しだけ気になっちゃう。
その手紙を開く瞬間、どんな気持ちになるか今から楽しみだな。
おわり
三五四、手紙を開くと
俺は救急隊員で、年末年始の時もそうだったけれど、連休は仕事柄休めない。
恋人の会社は整備会社でカレンダー通りだから休みなんだけれど、これまた年末年始と同じように緊急の呼び出しの時は対応するメンバーに率先して入ってくれる。つまり、その後に休みを取れるように調整してくれていた。
そんな中、車の調子がおかしくて整備士を呼ぼうということになった。が、今日に限ってどの会社も連絡がつかない。
どうしようと先輩が困っていたから声をかけた。
「彼女、呼びましょうか?」
「え、いいの!?」
俺の恋人が整備士だということは先輩も知っている。藁にもすがる瞳で俺を見つめた。
「会社的に緊急事態があれば対応するって言っていたから、言えば来てくれると思いますよ」
「助かるー!!!」
先輩はすぐにスマホを取り出して、彼女に連絡をする。すぐに繋がったようで、少ししたら上機嫌な顔で俺にお礼を言ってくれた。
こういう時に、俺に呼び出してってことを言わずに、自分が連絡するのが実に先輩らしい。責任者としての自覚がある。
そこはそれ、これはこれ。
分別付けられる人だから尊敬する。
しばらくして俺は救助で病院から出ることになった。すぐに着替えて車に乗り込む。
ちょうど彼女が到着したようで、動きの悪い車に向かっていた。
そして、彼女とすれ違う。
ホンの一瞬、目が合った。
でも直ぐにその瞳もすれ違い、お互い正面を見つめる。
お互いプロの仕事をしようね。
おわり
三五三、すれ違う瞳
今日は休みを合わせて、彼女とドライブに来た。
空気のいい場所に行きたいねという話でこの山に来たけれど、薄暗い雲があって天気に不安を覚える。
坂を登り車を走らせていると、次第に霧の中に入り、視界が白いモヤに覆われた。そうこうしていると、ふわりと空気が変わって日差しが射し込む。
「うわっ」
「すごい」
つい、ふたり同時に声を上げる。それもそのはず。さっきまでのモヤが抜けた先に雲ひとつない空は、まさに快晴。
「わあ、下が雲だ!」
「あ、じゃあ雲を抜けたんだ」
「なにそれ、すごーい!」
さすがに俺は運転しているから下を覗き込むなんて出来ないけれど、頂上に着いたら下を見ようと思った。
そして、頂上にある車を寄せて停められる場所に駐車場があるのでそこに停めて彼女と展望台に歩いていく。
「わぁ、空気も美味しいし、風が気持ちいいですね」
「そうだね」
彼女に返事をしながら、俺は展望台の下を覗き込む。下の景色が雲に覆われて見られはしないけれど、見上げれば青い青い空が広がっていた。
おわり
三五二、青い青い
デジタルフレームには恋人が選んでくれた俺たちの写真が沢山入っている。
この前、彼女が見せてくれたのは、この都市のイベントで撮影された集合写真。
俺もこの都市に来てそんなに経っていなくて、俺もまだ彼女に特別な想いを抱いていなかった頃だった。別の知り合いと一緒に参加していて、俺からあまり遠くないところに彼女が写っていた。
「懐かしいな……ん?」
その写真をよく見ていると、彼女の視線は俺を捉えていた。
今の俺だから分かる。彼女がこんな風に俺に向けてくれる熱くて甘い視線は俺に大好きと言ってくれる時だ。
気が着いた瞬間から、顔が一気に熱くなる。
いつから俺のこと好きになってくれたの?
俺はもう少し後に彼女へ明確な想いを自覚している。でも彼女はもっと前から……なのかな。
懐かしい写真も沢山あって、こんな頃から俺のこと好きになってくれたのかなと思っていると玄関から愛らしい声が聞こえてきた。彼女が帰ってきたな。
よーし、いつから俺のことを好きになったのか徹底的に聞いてやろ。
おわり
三五一、sweet memories
春一番という言葉があるように、風の強い日が最近風が強い日が多いなぁ。
俺が働いている場所は都市部にあってビル風もまあまあ吹くから、春が理由だけとは言い難い……かな?
そんなことを考えながら、彼女と待ち合わせ。
行きたい場所をふまえて俺の職場に近いところを集合場所にしていたんだけれど……遅いな。
「遅くなってすみません、お待たせしましたー!!」
風の吹く方向から彼女の声が響く。その風は向きを変え、走って来る彼女の横へ向けて激しい風が横切った。
「わっ!!」
風と共に登場した彼女だけれど、その風は方向を変えたかと思うと彼女のスカートを持ち上げる。
彼女は普段から短いスカートを履くもんだから、俺の視界にも……まあ、それが入りました。
その時の俺の行動は早かった。上に羽織っていたシャツを脱いでそれはもう素早く彼女の腰に巻いた。
「え、はやっ!?」
「はや、じゃないでしょ。短いスカート、可愛いけれど家以外は嫌だって言ったのに」
「うぅ、ごめんなさい」
彼女はしょぼんと顔を下げてしまう。いや、こんな顔を見たいわけじゃないんだけれど……やっぱり他人に見られたくないじゃない。
「可愛いって自覚して」
俺は彼女の耳元に囁いた。
一瞬、言葉に詰まって頬を紅くして俺を見上げる。
八の字の眉、下から見上げてくる困ったような表情は……ごめん、やっぱり可愛い。
「スカート履くなら、他にもなんか履いて。俺の方がもたないから」
俺の言葉を聞くと、ふわっと微笑んで頷いてくれた。
本当に、自分が可愛いこと無警戒なの自覚して!
おわり
三五〇、風と