今思うと「縁」って間違いなくあったと思うんだ。
救急隊に入って、先輩から色々教えて貰っている時に助けたのが彼女だった。
おっちょこちょいなのか、不幸体質なのか。彼女はよく怪我をして俺が当番の時に病院に来て話をするようになった。
彼女の職場にはちょっと怖い人も来るから、少し心配になって話しかけていくうちに、彼女と好きなものや、好きな色が同じで嬉しくなった。
何度も何度も巡り逢ううちに、彼女に惹かれていく自分に気がつく。
接客業の彼女は他の異性とも話す機会が多くて。その屈託のない笑顔は、たくさんの人の心を掴んでいっているのは知っていた。
それと同時に胸に刺さる痛みも。
こんな感情を持つなんて思わなかった。
自分の気持ちに戸惑いながらも、俺は彼女との距離を詰めたいのに、彼女の迷惑にもなりたくなくて距離を取った。
そうすればそうするほど、蓋をしていた気持ちが溢れてしまう。
そしてまた。
偶然、君と巡り逢ってしまうんだ。
ねえ。
俺は君に、手を伸ばしても……いい?
おわり
三四三、巡り逢い
彼女が作ってくれた朝ごはんをしっかりいただいて、ソファに座った。もちろん彼女を腕に抱きしめながら。
「あの……」
「なに?」
「私……この状態でいいんですか?」
ソファに座った俺の上に、彼女を抱きあきげて、腰に腕を回して逃がさないようにしていた。
「うん」
「重く……ないですか?」
「全然。あ、離す気はないよ?」
食い気味で彼女にそう告げると、少し困った顔をしながらも俺の肩に頭を乗せてくれた。諦めて俺に体重を預けてくれたのは嬉しい。
昨日、心身共に疲れ切っていたようで、彼女を充電しないとダメなくらい疲労していた。彼女の温もり、香りが心地いい。
彼女は体重を心配していたけれど、そんなに心配するほど重たいわけじゃない。実際、彼女は平均的な体重だと思うんだよな。
彼女を抱きしめていると、彼女の手が俺の頭に置かれて撫でてくれる。
「いつも、お疲れ様です」
「ん……」
彼女の手が心地よくて、瞳をとじて意識を手放したくなる。やっぱり彼女と一緒にいるこういう時間が安心するんだ……。
穏やかな気持ちで眠気に襲われて、少し身を任せてしまった。
しばらく時間が経っただろうか。
かくんっと浮遊感に襲われて目が覚めた。
「ごめん、寝てた?」
「あ、はい。でも、ほんの一瞬ですよ?」
これはまずい。
思った以上に彼女の体温を欲してしまう。
俺は彼女を抱き上げて隣に座らせる。自分の身体を伸ばして上半身を動かした。
「どうしましたか?」
「いや、どこか行こう。今日は甘えきっちゃう」
彼女はきょとんとしたけれど、すぐに柔らかい微笑みをくれた。
「甘えてもいいんですよ?」
「……うん、夜に甘える」
俺はそう言いきって彼女に手を伸ばす。くすくすと笑いながら俺の手を取ってくれた。
「じゃあ、どこへ行きましょうか?」
おわり
三四二、どこへ行こう
「無理、しないでくださいね」
優しく耳元で囁かれるいとしい人の優しい声。
眠りの海から浮かびかけていた俺が目を覚ますのには十分な甘い言葉だった。
目を覚ますと、覗き込んでいた彼女と目が合う。俺が目を覚ましたことに彼女は驚いて目をぱちくりさせていた。
「おはようございます」
「ん……おはよ」
身体を起こす前に彼女に手を伸ばす。彼女に触れてから、抱き寄せてベッドにまた転がった。
「うわっ!!」
彼女を抱き潰して、恋人の体温、香りを堪能する。彼女の温もりを覚え、彼女が手元からなくなって時間が経っていた事を理解させた。
「結構離れてた?」
「朝ごはん作ってました。もうできましたよ」
「そんなに寝入ってたんだ」
眠る時に彼女から離れると不安になる。肌を重ねてからすぐにそれがあると思い知り、それ以降は彼女を抱き枕にさせてもらっていた。
それなのに、こんな離れていたことに気が付かないほど寝入っていたのは正直不覚だ。
「ごはん……食べない?」
腕の中であどけなさを残して首を傾げる彼女。こんな可愛い顔をされたら、食べないなんて選択肢、生まれるはずないよ。
もう少し彼女の温もりを堪能したかったけれど、俺は身体を起こすことに決めた。
「……食べる」
「良かったぁ」
ああ、ずるい。
ほっとした笑顔に愛しさを感じて、彼女の額に唇を乗せると、彼女も俺の身体をぎゅーっと抱きしめてくれた。
「起きようか」
「はい! 朝ごはん、しっかり食べてくださいね」
うん。
ご飯を食べた後に彼女の温もりを堪能させてもらおう。
そんなことを考えながら、彼女を解放し、ふたり揃ってダイニングに向かった。
おわり
三四一、big love!
シュンシュンとお湯が湧き、目覚ましになるかとコーヒーを入れる。とは言え、苦すぎるのは苦手だから砂糖たっぷりのカフェオレを作る。
テーブルにはトーストに、スクランブルエッグとソーセージ、軽いサラダを作って置いてある。
あとは彼を起こすだけなんだけれど、どうしようかな……。
いつもなら、私が起きると違和感があるみたいですぐ起きて来るのに、今日は部屋から出てこない。
よっぽど疲れているのかな。
寝室に足を運んで覗くと、彼はピクリとも動かない。いや、呼吸で上下しているけれど寝返りを打たないというか、起きた時と変わってない気がする。
彼の顔が見えるところに移動して、覗き込むと目の下にクマがあるように見えた。
「無理、しないでくださいね」
小さい声で彼の耳元にささやいた。
おわり
三四〇、ささやき
夜空を見上げるとどうしても恋人を思い出してしまう。と言うのも彼女の名前には星をイメージする言葉が含まれているからだ。
無邪気で、少し天然も入っていて、笑顔が愛らしくて……いや、これは惚れた弱みかも。
夜の中に宝石を散りばめたような夜空はきらきらと輝いていて綺麗だ。
うーん。
名前で彼女を思い出すのもあるけれど、彼女の瞳もきらきらしているから、そっちもあるのかな。
きゅっと繋いだ手に力を入れられて、俺は視線を送ると星のようなきらきらした恋人の瞳が俺を捉えた。
「どうかしましたか?」
星空に心を奪われた俺を不安気な声で引き戻す。
白い肌にほんのりと赤い頬。あどけなさの残る表情。少し開いた桜色の唇。そして綺羅星のような瞳。
もっと明るいところで見るのも良いんだけれど……。
「きれいだなって……」
「へへ、ありがとうございますっ!」
星明かりの下で見る恋人は、いつも以上に……ときめいてしまうのに、この笑顔は反則でしょ。
やっぱり、惚れた弱みだなと苦笑いしてしまった。
おわり
三三九、星明かり