とある恋人たちの日常。

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4/1/2025, 1:34:07 PM

 
 苦しくて、痛くて、辛くて。
 身体を引き裂かれる痛みに気がふれそうだった。
 
 痛みは少しづつ並みのように来て、その感覚は短くなって今に至る。
 
 身体中の力を振り絞っていきみながら、うめき声をあげてしまう。
 
「頑張って」
 
 愛しい彼が私の手の上に自分の手を重ねてくれていた。私を見る彼の瞳からは泣きそうなほどの切なさを感じられる。
 
 苦しい。痛い。辛い。痛い。
 ああ、でも愛してる。
 
 そこからは、あまり記憶がない。
 引き裂かれそうな……ううん、実際に身体は引き裂かれていたの。
 痛みのピークが通り過ぎ、お腹の重さ、痛みが解放される。
 
 そして響き渡る子供の泣き声。
 
 良かった……。
 
 今までずっと全身で力を入れていたから、身体中の力を上手く抜けない。
 
 身体中から精一杯の声をあげて泣く今産まれたばかりの私の可愛い赤ちゃんが視界に入る。
 
「はじめまして……」
 
 色々な想いが溢れて涙がこぼれ落ちた。
 
「これからよろしくね」
 
 
 
おわり
 
 
 
三二〇、はじめまして

3/31/2025, 1:47:37 PM

 
 運転の練習は今日も続く。
 一度しっかりと彼から教えてもらった運転。
 
『ポイントとして三つあるけれど、まだ二つしか教えてないんだよね』
 
 初めて教えてもらった時に、そう言ってくれた。
 あの時はタイムリミットが来てしまったけれど、あの言葉を現実にできるように頑張るのは自分なのだ。
 
『なら、もっと上手になったら三つ目を教えてもらえますか?』
『もちろん、いいよ!』
『じゃあ……また?』
『うん、またね!』
 
 そう、笑ってくれた。
 私は、彼の笑顔がまた見たい。
 
 人通りの少ないところで練習をする。細かい動きにも神経を澄ませ集中して動かしていく。
 
「もっと上手になって、また教えてもらうんだ!」
 
 運転を教えてもらった時の時間は特別なものだった。
 苦しいことも、悲しいことも、鼓動が早くなる大切な気持ちも誤魔化して。それでも彼の笑顔が傍にあった。
 
 ドキドキしたけれど、そんな気持ちに自分が支配されたら、あの時間を無駄にしてしまう。だからあの時は自分の気持ちをしまって練習に集中した。
 
 集中、集中するんだ!
 
 もっともっと練習して、彼の笑顔を見るんだ。
 
『またね!』
 
 大好きな彼の笑顔を見るために、私は教えてもらったことを思い出しながら練習を続けた。
 
 次の練習の時には、上手くなったことを褒めてもらうんだ。
 
 
 
おわり
 
 
 
三一九、またね!

3/30/2025, 1:23:21 PM

 
 最近の寒暖差、やばくない?
 こんなの続いたら健康体だって体調崩しちゃうよ。
 
 服で調整しているけれど、これは地味に堪えるなあ……。
 
 昨日までは真冬の寒さ。
 でも本気の真冬の気候とは違うキンとした鋭い冷たさが肌に刺さる感じがなく、どこか穏やかでそれが春を感じさせる。
 
 俺はスマホから天気予報を覗くと明日からはまた一気に気温が上がるようだ。
 
 気がつけばもうすぐ四月。
 そろそろ風が春を連れてきてくれる……よね?
 
 
 
おわり
 
 
 
三一八、春風とともに

3/29/2025, 2:40:44 PM

 
 後から知る事実は胸を締め付けるもの。
 何度も、何度も、何度も、何度も!!!
 
 別れはその人が決めたこと……だけれど、後から聞く方の身にもなって!!!
 
 目頭が熱くなって堰を切ったように涙が溢れる。
 
 私は手のひらを伸ばしたけれど、虚しく空を掴むだけだった。
 
 届かない。
 いつも、届かないの。
 
 空を掴んでいた私の手が、誰かに取られる。
 
「――ちゃん!!」
 
 悲痛な声が耳に入って、私は目を覚ました。
 
「大丈夫!?」
 
 恋人が私の顔を真剣な顔で見つめている。私の手を彼がしっかりと握っていた。
 
 ボロボロとこぼれる涙がとめどなく流れて止められない。そして彼の胸に飛び込んだ。
 
 彼は何も聞かずに私を力強く抱き締め返してくれる。
 
「俺は……そばに、いるから……」
 
 絞り出すような声、そして彼の温もりが私の精神を落ち着かせてくれた。
 
 
 
おわり
 
 
 
三一七、涙

3/28/2025, 2:51:52 PM

 
「あーん」
 
 何気なく俺の目の前に出されるスプーン。そこにはバニラアイスクリームがちょんと乗っている。
 恋人が自分の前にあるクリームソーダのアイスクリームをすくって、俺の前に差し出していた。とんでもなく眩い笑顔で。
 
 本当に唐突だからびっくりしていると、彼女が頬を膨らませる。
 
「食べられませんか?」
「いや、そういう訳じゃないよ」
 
 ここが外じゃなくて良かったと思いながら口を広げると、彼女は差し出したスプーンを口に運んでくれた。
 甘いバニラが口に広がるんだけれど、いつもより美味しく感じられる。
 
「おいしい……」
「おいしいです?」
「うん、おいしい!」
「魔法かけましたー!」
 
 無垢な笑顔でそう言う彼女が愛おしいくて、幸せが広がった。
 
 
 
おわり
 
 
 
三一六、小さな幸せ

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