とある恋人たちの日常。

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3/17/2025, 11:22:19 AM

 
 むかむかむかむか。
 お腹の中に嫌な感情が燻っていた。
 
 ――
 
 自分が所属している救急隊の中でイベントを開催することになった。
 そこで受付をすることになったんだけれど……参加者に仲のいい彼女が男友達と一緒に参加することを知った。
 
 むかむかむかむか。
 
 嫌な感情が身体を駆け巡る。
 彼女が楽しそうにしていればしているほど、上手く笑顔が作れない。
 
「お願いします!」
 
 そう屈託なく笑う彼女が胸を締め付ける。
 
 準備のために少し談笑するけれど、なんか納得いかなくてモヤモヤしてしまう。
 
「はい、行ってらっしゃい」
「はーい、行ってきますねー!」
 
 俺は今日スタッフで。
 彼女は別の人と参加していて……。
 
「俺が一緒に行きたかったな……」
 
 そんな、図々しい願い。
 
 
 
おわり
 
 
 
三〇五、叶わぬ夢

3/16/2025, 1:05:21 PM

 
 カラッカラに水分が飛んだ真冬がおわりを告げようと雨が降る日付が多くなってきた。
 冬から春に向けて季節が変わってきているんだなと感じて、時間の経過に嬉しくなった。
 
 そんなことを考えながら、窓から雨のにおいを嗅いだ後に窓を閉める。
 すると玄関から音が鳴り、愛しい恋人の声が響いてきた。
 
「ただいま帰りましたー」
 
 当たり前のように玄関の方に向かう。どちらかが帰ってくると出迎えてハグをするのが日課だったからだ。
 
「おかえり。雨、大丈夫だった?」
「今日は車で行ったから問題ないです!」
 
 彼女を視界に入れた瞬間、ふわりと甘い花の香りが鼻腔をくすぐる。彼女は白と水色の花束を持っていた。
 
「どうしたの、それ?」
「ああ、これ友達がくれたんです」
 
 彼女の友達に花屋の店長がいるから、ホワイトデーに合わせてくれたのかな?
 
 花束はそこまで大きいものでは無かったけれど、彼女の好みや雰囲気とあっていて……その……凄く可愛いんだ。
 
「かわいい」
「へ?」
「あ、ああ、いや、花瓶あったっけ?」
「ふふ、買ってきちゃいました!」
 
 彼女は花と花瓶が入っているだろう袋をテーブルに置いてから、俺に振り返る。
 そして両手を広げて俺の胸に飛び込んできた。
 
 やっぱり、甘い香りがする。
 花の香りと共に彼女の特有の香りが。
 
 
 
おわり
 
 
 
三〇四、花の香りと共に

3/15/2025, 11:34:56 AM

 
 沢山の人だかりの中で見つけた彼女。
 彼女の職場は女性社員が多いし、ファミリー感がある。
 
 そんな中で、どこからの関係か分からない異性と楽しそうに話して笑っている姿を視界に入れてしまった。
 
 その笑顔が他の男に向けられていると理解した時から、どことなく落ち着かない。どうしてもソワソワしてしまう。
 
 俺の知らない笑顔や笑い声を聞いて、強烈に胸が締め付けられた。
 
 ふと、彼女が俺を見つけて手を振ってくれた。
 俺の知っている笑顔……だけど、さっきの笑顔より嬉しそうな顔に見えてしまったのは贔屓目だからなのかな。
 
 心のざわめきが無くなっていく。
 
 俺も単純なんだよ。
 君をひとりじめしたいんだ。
 
 
 
おわり
 
 
 
三〇三、心のざわめき

3/14/2025, 12:16:30 PM

 
 沢山人が集まっている。
 イベントでこの都市の住民が集まっていた。
 
 これだけ人数がいても、聞き取れてしまう声。
 
 集まった友人達と話していたけれど、視界を変えるたびに声の主を探してしまう。
 
 笑顔で対応しているし、話もちゃんと聞いている。それでも合間合間に彼女を探してしまった。
 
「もう、社長ー!!」
 
 楽しそうな笑い声が聞こえた。
 それだけで、どきりと胸が弾んだ。
 
 会話が一段落した時、視線を声の方に向けると結構離れた場所に女性たちが集まって談笑している。その中の一人に彼女がいた。
 
 言葉にならない気持ちが胸を締め付ける。
 
 なんでもない会話を続けながら、どうしても彼女を追いかけてしまう。
 
 一瞬、彼女と目が合った気がした。
 
 彼女を見ていたことを気が付かれたかな?
 そう思うと、彼女を視界に入れにくくなった。
 
 どうしよう、話したい。
 
 少し一人になりたい。
 そう思って、みんなの輪から離れると、やっぱり彼女を探す。
 
 話したい。
 声が聞きたい。
 
 ねえ、どこにいるの?
 
 どうしても。
 俺は彼女を探してしまうんだ。
 
 
 
おわり
 
 
 
三〇二、君を探して

3/13/2025, 12:22:39 PM

 
 色素の薄い俺の恋人。
 陽射しに当たると、そのまますり抜けそうだった。
 
「どうかしましたか?」
 
 きらきらした太陽の光を背景に彼女が俺をのぞき込む。
 
「きれいだなって……」
 
 彼女は不思議そうな顔をして、周りを見渡して首をかしげた。
 
「なにがですか?」
 
 そう言いながら首をかしげる。俺言葉は自分のことだと、認識していないようだった。
 
「あまり陽にあたると良くないかもだから、こっちおいで」
 
 そもそも色素が薄いのだから、紫外線に晒されると肌に良くない。
 
 何を言われているのか理解出来ていなくても、俺がそばに来るよう言ったのは分かったので、彼女は俺の腕の中に収まる。
 
 頭を撫でると、透明感のある彼女の髪の毛が柔らかくて心地いい。
 
「君がきれいだって言ったんだよ」
 
 それだけ呟くと、驚いたような空気をまとうけれど、すぐに俺の身体に手を回した。
 
「ありがとうございます」
 
 
 
おわり
 
 
 
三〇一、透明

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