ドコから来たのか。
それは大好きな彼にも言えない。
ココに来てからの私が、今の私のすべて。
居場所がなくなった私が求めたのは、〇〇で。
でもそれを彼には言えなくて。
だって、きっと言っても信じてもらえない。
困った顔で笑ってくれる。と、思う。
「遠く……に、来たよね。私」
過去に戻りたいかと言われたら、それは絶対にない。
今がいい。
彼と想いが通じ合った今がいい。この〝今〟のこれからがいい。
私は窓の外を見つめる。お日様が下へもぐろうとしている鮮やかな夕陽が見えた。
もっと先に……あるのかもしれない〇〇。
そこから逃げた私は、現在(今)、彼に出会って、これ以上にないほどの幸せを噛み締めている。
今がいいの。
夕陽は彼の優しい瞳を思い出してしまうからか、私の目から涙がこぼれ落ちた。
今がいいの。
この今で〇〇に帰りたいの。
大好きな彼と一緒に。
おわり
二六八、遠く……
俺には好きな人がいます。
誰にでも笑顔だし、優しいし、思いやりのある女性だから、他の人からも好意を向けられている……気はする。
請求書に添えてくれる他愛のない一言が嬉しくて、好きなものが同じものが多くて、無理に内側に入ろうとしてこなくて……。
一緒に居て心地いいんだ。
募っていく〝好き〟という気持ちをいつか伝えられたら良いと願ってしまう。
誰も知らないけれど、誰にも言っていないけれど。
多分、周りの人たちは少しづつ気がついている俺の秘密。
おわり
二六七、誰も知らない秘密
しんと静まる夜。
今日は恋人が夜勤で居間にひとりでソファに座っていた。
テーブルの前にはココアが湯気を失いかけている。それだけ時間が経った証拠。
眠ろうとは思ったんだ。
でも、彼が居ない寂しさに負けてしまった。
まあ、明日はお休みだから、頑張って眠ろうとも思わなかった。
そう。
明日は私も彼も休みだ。
彼が帰ったあと、彼にぎゅーってしてもらって眠ってから、のんびり買い物デートしよう。
あのお店見て、こっちのお店を見て……。
そんな想像をしていたら、少し楽しくなってきた。
コップを手に取りココアを口に含むと、すっかり冷たくなっていた。甘さが控えめになっていて、苦味が目を覚ます。
あ。
窓の外に視線を送ると、下の方からオレンジ色が差し込んできていた。
夜が明ける。
もう少ししたら、彼が帰ってくる。
そうしたら大好きな彼の笑顔が見られるんだ。
私の静かな夜明けが終わる。
おわり
二六六、静かな夜明け
疲れた。
肉体的にじゃなくて、精神的に。
仕事もプライベートも楽しいんだ。
人からもらう好意も嬉しい。
楽しいけれど。
嬉しいけれど。
疲れる。
そんな過去だった。
「大丈夫ですか?」
ソファで目を覚ますと、恋人が俺を心配そうな顔で覗き込んでいた。俺の頬に手を伸ばして優しく添える。その体温の温かさに安心を覚えた。
誰より愛しい彼女。
俺は両手を伸ばして彼女を抱きしめる。
「どうしました?」
彼女は俺を包み込むように抱き締め返してくれた。
そう。
あの時も、心が破裂しそうなくらい疲れていたんだ。
そんな時、俺の心にその心で寄り添ってくれたのが彼女だ。
心と心を合わせて、俺のストレスを解放してくれた人。
「もう少し、このままでいて」
君がいれば大丈夫だから。
おわり
二六五、heart to heart
「なにこれ?」
家に帰って居間に行くと、見慣れない白い箱があって、俺は思わず恋人に疑問をぶつけた。
「えっと……もらったんです」
「中身なに?」
彼女は少しだけ戸惑いながら、俺を見上げてから箱を開ける。すると中には白と水色と青い薔薇が敷き詰められていた。
「え。これって、プリザーブドフラワー?」
「は、はい」
ん?
なんか様子おかしいぞ。
不自然なまでに視線を逸らす彼女。どことなく頬と耳まで赤くなってる。
「なんかあった?」
「あ、あぁ……いや、えっと……その……」
ついにもじもじし始めた。
「えっと……聞かない方がいい話?」
「あ、いや……」
パッと顔を上げて慌てて否定する。少し考えたあとに照れた顔で見上げた。
ダメでしょ、その顔は。
俺は君に惚れているんですよ?
今度は俺の方が視線を逸らして手で顔を隠した。
「え?」
「あ、いや。なんでもないです、教えてください」
すると、彼女が左手を差し出す。そこには俺がプレゼントした指輪が光っていた。もちろん、薬指にはまっている。
「こ、これを見た社長たちが、勘違いしてお祝いって……」
「ふぇ!!?」
それはつまり……結婚祝い……。
それに気がついたあと、一気に顔が沸騰したように熱くなる。
彼女の反応はこれか……。
照れた顔した彼女はとても可愛くて。
俺も照れはあったけれど、気持ちは固まっている。だから彼女に指輪を渡したんだ。
俺は彼女の手を取ると、照れながらも不安な表情で俺を見つめる。
「安心していいよ。俺はそのつもりだから」
いつか。
プリザーブドフラワーと共に、君に永遠を違う花束を贈るね。
おわり
二六四、永遠の花束