「ん、まぶし……」
お店から出ると燦々とと降り注ぐ太陽の光に手をあげて影を作りながら目を細めた。
これは目が慣れるまで時間がかかりそう。
私はさっきまで暗いお店にいた。お店のコンセプト的に明るくするのはイメージ似合わないからだ。
そんなお店に長い時間いた。
待ち合わせしていた彼が到着したと連絡があったからお店の外に出た結果、太陽の光に目が負けてしまったのだ。
「大丈夫?」
「んー、まぶしい……」
彼の方が私を見つけてくれて、声をかけてくれる。すると顔を覆って影を作っている手ではない方の手を取って、優しく引っ張ってくれた。
「ゆっくり動くけれど気をつけてね」
「ありがとうございます」
彼の手に引かれて、日陰に入る。
外側から来る光は眩いけれど、時間をかけてゆっくりと目が慣れて、大好きな彼の顔がはっきり見えた。
「大丈夫?」
「はい、ありがとうございます」
心配そうに見てくる彼は優しくて、私にとっては太陽みたいな人。
やっぱり目を細めて口角が上がる。自然と笑顔になってしまった。
「ん? どうしたの?」
ふふっと笑いが込み上げてくる。
太陽から逃げたのに、私の太陽がそばにいる。
どっちもまぶしい。
おわり
二五八、日陰
物音に気がついて、眠りの海から浮上する。
周りを見ると隣にいるはずの恋人が居ないことに気がついた。シーツに触れると冷たく、彼女が起きてそれなりに時間が経っていることが分かった。
血の気が引いていき、俺は慌てて身体を起こす。
「あ、おはようございます」
「どしたの?」
そこには外に出かけようとブーツを履いている恋人がいた。
「朝ごはん作っていたんですけど、材料で足りないものが出ちゃって、買ってこようと思ったんです。起こしちゃってごめんなさい」
苦笑いしながら、すぐ戻りますねと言うけれど、俺はその手を取った。
「……だめ、まって」
「え?」
俺は彼女を引き寄せて抱きしめる。
「起きたら居ないの、やだ」
「ごめんなさい。昨日遅かったから疲れているかと思って……」
彼女は宥めるように俺を抱きしめてくれるけれど、俺の気は収まらなかった。
「待ってて!」
「え?」
「俺も行く!」
「ええ!?」
俺は彼女の身体を離して、部屋に戻る。急いで服に着替えて鏡を見るととんでもないほどの寝癖が付いていた。
「……」
この寝癖……どうしてやろうかな……。
あ。
俺は玄関で待ってくれている彼女に顔を向けた。
「ごめん、この帽子貸して」
きょとんとした表情で俺を見つめるけれど、くすりと笑って首を縦に振ってくれた。
俺は彼女の少し大きな帽子をかぶって玄関に向かう。
「じゃあ、行こうか!」
「はい!」
そんなお休みの日の朝だった。
おわり
二五七、帽子かぶって
「あ、こんにちは!」
「こんにちは!」
彼女と出会ってから、挨拶をするようになった。
そこから好きな色、好きな飲み物が一緒だと知った。
少しずつ笑顔が見たくなる彼女。
もっとその顔が見たくて、小さな勇気を振り絞った。
「ねぇ、今度一緒に出かけない?」
俺の使っている社用車を修理している彼女に、なんでもないふりをしなから声をかける。それを言っても良いような関係値にはなった……と思うんだ。
彼女はひょこっと顔を俺に向けて、パッと笑顔になった。
「いいですよ! 行きましょう!!」
かわいい。
そう思ってしまったのが少し悔しい。
けれど、その笑顔が見れたのは凄く嬉しい。
そんな俺たちの恋の始まり。
おわり
二五六、小さな勇気
彼女が喜んでくれるのってなんだろう……。
そう考えながら、今日の夕飯を用意する。
この前、恋人から『なんでもない日だけれどプレゼント』という事で、コンパスをもらった。
俺の仕事的に、コンパスがあると〝生き残る可能性〟が高まるからだ。それは彼女が俺に〝帰ってきて欲しい〟という気持ちが込められているのが分かって胸が熱くなる。
今日は俺が非番で彼女だけが仕事だから、のんびりと買い物に行くと、無意識に彼女の好物がカゴに溢れていた。
……これなら出来合い物を買ってもいいし、夕飯に連れて行ってもいいんだけれど……。
彼女が普段プレゼントでくれるものを思い出す。すると、高級な夕食に連れて行くとか、高いものをプレゼントをするとかじゃない。俺自身がなにかする必要があるかなぁと考えてしまった。
それは彼女が俺にくれるプレゼントは、自分で作ってくれたものが地味に多いからだ。
今日の夕飯は腕を振るおう。
バイトでレベルを上げた程度の腕だけれど、彼女の喜んでもらえるものを用意したくなった。
「ただいま帰りましたー」
夕飯の支度を一通り終えた頃、彼女が家に帰ってくる。いつものように、玄関へ足を向けた。
「おかえり〜」
「ただいまです、疲れましたー!!」
言葉と同時に両手を広げた彼女が俺の胸に飛び込んでくる。
「おつかれ、おつかれ」
抱きしめ返しながら、頬を彼女に擦り寄せた。
しはらくお互いの体温を分けあってから、身体を離す。
「お腹すいた?」
「すきましたー!」
「夕飯、すぐ食べられるよ」
「食べますー!」
彼女はすぐに洗面台に向かい、手洗いうがいをしに向かう。その間に俺は最終的な準備をした。
「わぁ!」
ダイニングに来た彼女は口を大きく開け、目がきらきらと輝いていた。
「私の好きなやつがいっぱいー! 豪華ですー!!」
パッと俺に視線を向けてくる。
「この前もらったコンパスのお礼」
「えー、気にしなくていいんですよ! 私があげたかっただけなんですから……」
まあ、そう言うよね。
「でも、嬉しいです。ありがとうございます!」
そう微笑む彼女の顔はとても……とても可愛い。
ヤバいな。
お礼のつもりだったのに、俺の方がいいものもらっちゃった。
おわり
二五五、わぁ!
スマホの写真を見ていると、最近の写真からスワイプをして過去に遡っていく。
大好きな彼との写真が増えている。
指を下に動かして、動かして過去に戻っていくと一気に彼が減って、会社の人たちやお客さんとの写真が増えていく。
最初の一枚。
この都市に初めて来た写真。
そこから、今に戻るようにゆっくりと写真を流していく。
この頃に会社に入社したんだ。
まだこの都市のことを知らなくて、仕事も分からないことが多くて社長にも沢山迷惑をかけたな。
この頃に初めて彼に助けてもらったんだっけ……。
そこから少しずつ、彼が写真に増えていっていく。
お付き合いをし始めた頃から、更に彼の姿が増えていった。
一緒の家に住むようになって、今に至る。
スワイプしても、新しい画像は出てこないところまで戻ってきた。
ここからは、未来の私たちの人生で、ずっと続く終わらない物語。
おわり
二五四、終わらない物語