ソファに座って眠っている恋人。
疲れているのか、隣に座っても起きる気配は無かった。
そんな彼女の頬を撫でると、こそばゆいようで眉間が少し動いてから、ふにゃりと緩んだ笑顔で眠りについた。
「ふふっ」
なんとも気の抜けた笑顔に思わず俺も笑ってしまう。
今朝。
彼女が楽しい夢を見ていたと言っていた。
今もその夢の続きを見ているのかな?
このままここで眠らせるのも気が引けたから、彼女を横抱きにしてゆっくりと持ち上げる。
寝室に向かい、ベッドに降ろした。
「夢のつづきを楽しんでね」
おわり
二四一、あの夢のつづきを
目を覚まして身体を起こすと、腰の辺りに重さを感じた。
冷たい空気が肌に触れて、一瞬震えてしまう。
「ん〜……さむいぃぃ……」
起き上がったことでベッドに隙間ができて、冷気が毛布の中に入ったことで、隣で眠っていた恋人が抗議の声をあげた。
年末年始が忙しくしていた彼と合わせて遅めの冬休みを過ごしていたから、急いで起きる必要はない。
時計をちらりと見つめると起きるにはまだ早い時間だったから、もう一度彼の横に寝転がった。
「かくほぉ〜」
なんとも気の抜けた声を出しながら、私を抱きしめてくる。
彼の腕の中に収まると、その上から毛布が掛けられて寒さが和らいでくる。
「あたたかいね」
「はい、あったかいです」
くすくすと笑い合いながら、温もりが浸透してきて眠りを誘ってくれた。
せっかくの休みなのだから、誘いにのってふたり共に意識を手放した。
おわり
二四〇、あたたかいね
少し前と言うか、去年のクリスマスに恋人へのプレゼントのこと。
プレゼントを贈る時って割と色々考えるじゃない?
特に相手が恋人だから尚更。
正直さ、俺が何を贈っても喜んでくれると思うんだ。
でもさー、そうじゃないよね。
やっぱり心に響くものを渡したいって思ったんだ。
散々悩んだけれど、やっぱりそれを贈りたくて、一度お世話になったジュエリーショップに相談に行った。
今、それは彼女の薬指で光っている。
プラチナに、彼女の色だと感じている宝石であるアイスブルーダイヤモンドのリング。
それは、俺にとっての未来への鍵。
おわり
二三九、未来への鍵
遅い冬休みで恋人と日の出を見に来た。
早い時間に眠り、日の出に備えただけあって暗い時間に目を覚ます。
日の出を迎えるには、まだまだ早い時間。
俺が飲みものの用意をしていると、彼女がカーテンを開けた。
「わぁ……」
彼女が感嘆の声をつく。
「見てください!! 月と星のかけらがキラキラしてます」
「どゆこと!?」
彼女の言葉に驚きながら、暖かい飲み物を彼女に渡しつつ隣に立った。
視線を彼女から窓の外に向けると、月と星が水面に反射してキラキラしている。
「すごっ……」
日の出を見るために選んだホテルはオーシャンビューだから、日が入る前の暗い海に輝きを放つ。
確かにこれは月と星のかけらが輝いているように見えた。
彼女が自然と俺に身体を寄せてくれる。
「ここから日の出が楽しみですね!」
彼女の腰から抱き寄せると視線が絡み合う。自然と笑顔になってから、もう一度海へ視線を戻した。
「そうだね」
おわり
二三八、星のかけら
透明感のある異質な世界。ここは神様の住まう場所。
そんな中、異質でレトロちっくな部屋に一際珍しい音がジリリリリンと鳴り響く。
それはスマートフォンが世界に浸透した世界なのに、家主は時代遅れも甚だしい電話の音だった。
細身の手が古めかしい黒電話に手を伸ばす。
「もしもし」
どこか艶やかな声が響き渡る。
受話器越しに聞こえてきたのは、少し前から気にしている男女の様子を知らせてくれる連絡だった。
お互いへのリスペクト、思いやりを持っているふたりが、心が通じ合い恋人になって時間が経つ。
年末年始に青年が忙しそうにしていたけれど、落ち着いて過ごしているらしい。確認する限り、小指の糸の色が鮮やかな赤になっているとのこと。
神様は満足そうに微笑み、「ありがとう」と告げるとガチャンと重そうな音を立てて受話器を置いた。
あのふたりは、神様の清涼剤。
ケンカをする訳じゃない。
お互いを想うから怒り、相手は反省して身を寄せ合う。
それを聞いて心が落ち着いた。
色々なものを見守る神様にだって楽しみは欲しいんですよ。
おわり
二三七、Ring Ring……