今日も今日とて普通に仕事をしていた。
救急隊員としては、年末年始なんて関係ない。でも世の中はそうじゃない。年末年始のどこか浮かれた雰囲気がこの都市を覆っていた。
去年は書き初めしたな。
去年の豊富はお金を貯めていたから……まあ……うん……。
微妙に色々えぐる抱負を書いた記憶で、片隅に追いやった。
今年の抱負だ、今年の抱負!!
今年はなにがいいかな……。
ぼんやりと考えて、今年も抱負を提出した。
仕事を終えて、家に帰るといつものように恋人が飛びついて出迎えてくれる。
「おかえりなさい! 今日もお疲れさま!!」
胸に飛び込んできた彼女を正面から受け止め、力強く抱きしめ返す。
「ただいまー」
「お腹すいてますか? 温めればすぐ食べられますよ」
「あ、食べたい」
「すぐ用意しますね! 着替えてきてください」
「ありがとう」
彼女は嬉しそうに微笑んでから俺から離れ、キッチンに向かった。
その彼女の背中を見つめながら病院で、やり取りをした抱負のことを思い出す。
今年の俺の抱負。表面的なことは病院に出したことでいい。
でも生活面で言うなら、なにか大きいことを願うんじゃなくて、小さくてもいいから彼女と平穏に過ごせたら……と思った。
おわり
二三一、新年の抱負
無機質な音で目を覚ますと、パンを焼くいい香りが鼻をくすぐる。
いつもそばに居てくれる愛しい恋人の温もりがなく、朝から少し不満を覚えた。
香りにさそわれて寝室からダイニングに向かった。
「おはよぉ……」
なんとも気の抜けた声で、愛しい恋人に声をかけるとら慌てて火を止めて、菜箸を置くと、満面の笑顔で俺の胸に飛び込んでくる。
この温もりが欲しくて、力強く抱きしめ返した。
「うふふ、おはようございます。あと、あけましておめでとうございます〜」
彼女の体温を身体で感じてながら、彼女の言葉を反芻した……。
「あ、そうか。あけましておめでとう。あと、おはよ〜」
昨日も今日も普通に仕事だから、いつも通りの感覚で過ごしていた。そう言えば昨日の夕飯は年越し蕎麦だったっけ。
少しずつ頭は覚めていくのを理解しつつ、抱きしめていた彼女への力を緩めた。
「今年もよろしくね」
なんとも力の抜けた声だったけれど、いつも通りでいい。そう思った。
彼女にそれが伝わったのか、周りに小さい花がぽんぽんと咲いていくような笑顔を俺に向けてくれる。
「はい! 今年もよろしくお願いします!」
おわり
二三〇、新年
お蕎麦はすするもの。
と、言うことで、恋人とテーブルで向かい合わせてずるずるとお蕎麦を食べている。
日本の年の瀬ということで、暖かいお蕎麦を夕飯にしていた。
世の中は年末年始ということで、お休みモードに入っている人々が多いけれど、俺は今日も明日も普通に仕事だった。
せめて年末年始らしくということで恋人が夕飯にお蕎麦を作ってくれた。それが嬉しくて美味しいさに磨きをかけている。
「おいしかった〜、ごちそうさまでした〜!!」
「おそまつさまでしたー!」
作ってくれたから、俺の方が片付けをしようと立ち上がると、彼女が制止する。
「だめです、ゆっくり休んでください!」
そう言われてソファに座らせられる。
夕飯も食べて、ぼんやりとしていると心地よい疲労感が襲ってきて、眠気を誘う。
暖かいお蕎麦は身体を温めてくれるから、より眠気を強める。
ダメだ……。
彼女が近く気配はするけれど、意識は遠のいてしまう。
まだ彼女に伝えてないんだ。
良いお年を……と、来年に希望を願う言葉を……。
おわり
二二九、良いお年を
もぐもぐと幸せそうな顔でみかんを頬張る恋人を見ていると、心が暖かくなって今こうしている時間が本当にしあわせだなと感じていた。
色々あった一年だ。
でも、こうして彼女と過ごせる初めての一年で、今度は二年目が始まる。
出会ったのは去年だけれど、こんな関係になったのは今年からで。苦しい時も、辛い時もあった。
でもそんな時には彼女がそばに居てくれた。寄り添ってくれた。
俺はもう手放せない。
そんなことを考えながら彼女の頬へ自然と手を伸ばしていた。
「? どうしましたか?」
「うん……」
大したことないんだ。
「一年、色々あったけれど、しあわせだなって」
その言葉を聞いて、頬に添えた手の上に被せるように彼女の手を置き、頬を擦り寄せる。
「私もしあわせです」
おわり
二二八、一年間を振り返る
家でのんびりとした時間を過ごしていると、恋人が丸いボウルにみかんを山にして持ってきた。
「疲労回復みかんの登場ぉ〜!」
先日、早めの年末年始の買い物をしてきたけど、みかんを買った記憶はなかった。
「どこから出てきたの、そのみかん〜?」
彼女は俺の隣に座ると、ローテーブルにボウルを置いて、そこからひとつを撮って俺に向ける。
「社長からもらいました〜。沢山送ってもらったんですって〜」
「おすそ分け〜」
向けられたみかんを受け取り、皮を剥き、甘皮も丁寧に取る。
「あーん」
キレイになった一粒のみかんを、俺は当たり前のように彼女に向けた。
目を丸くしてみかんを凝視した彼女だっけれど、ふわりと笑顔になって口を大きく開けてくれる。
俺はゆっくりと彼女の口にみかんを運ぶと、俺の指ごとパクッと食べる。と言ってもみかんだけ食べて、指はハムハムと唇で止めていた。
「こらぁ、俺の指まで食べるな〜」
「んふふふふ〜、おいひぃれす〜」
完全に顔が蕩けた満面の笑みが、とても愛らしい。
「分け合いながら食べようね〜」
「はーい」
次のは自分で食べるけれど、その次も食べさせてもらえるのと思っているのか、目が輝いている。
「また食べさせてもらえると思ってるな〜?」
「思ってます〜」
実際、彼女は自分の目の前にあるみかんに手を付けず、楽しみに待っていた。
「自分で剥け〜、じゃなかったら俺に食べさせるために剥け〜」
「あはははは」
話しながら自分の身体を思いっきり彼女の身体に押し付ける。
「剥きます、剥きます〜」
彼女は目の前のみかんを丁寧に剥き始める。俺はそれを見守っていると、優しい瞳が俺を捕らえた。
「はい、あーん」
おわり
二二七、みかん