彼女と人気のイルミネーションを見に行ったあと、人混みから逃げるように海の見える公園へ向かった。
そこには都市の有志で飾られた小さなイルミネーションと、それを見るための椅子が用意されている。
「ここにもイルミネーションがあるんですねー」
「俺も知らなかったー」
彼女の手を取り、椅子に座る。吐く息も白く寒いから彼女の肩を抱き寄せた。彼女も寒いと言わんばかりに俺の腰に両腕を回す。
正直、人混みに疲れたのと暑かったから、少し頭も冷やしたくて海に来た。本当にそんな軽い気持ちだったんだ。
規模は小さいイルミネーションで、当然迫力も段違いだけれど、公表されている場所じゃないから人も少なくて落ち着く。
「寒いけど……落ち着きますね」
俺も寒いには寒いけれど、彼女の体温が心地よくてたまらない。
「そうだね」
さっきまでの喧騒とは違って、繰り返される波の音と彼女の体温が心を落ち着かせる。
「寒いけれど君が暖かいから落ち着く」
「私もです」
そう言いながら、彼女は俺の胸にすり寄る姿が愛らしい。
「もう少し寒くなったら雪降るかなー」
「クリスマスくらいに降ったらいいですね」
すると彼女は身体を話して目線を俺に合わせる。そして満面の笑みで話しかけてきた。
「雪が降ったら、また来ましょ。今度は暖かい飲み物も持ってきて!」
「ここに来るまで大変そうだけれどね」
ふたりで笑い合うと、どちらからともなくもう一度肩を寄せあった。
雪が降ったら、また来よう。風邪をひかないように寒さ対策をしっかりしてね。
おわり
二一三、雪を待つ
頬に冷たい風が当たって寒さがしみ渡る冬。仕事終わりに彼女を連れ出して向かったのは、この都市の大きな公園。そこはクリスマスイルミネーションが有名なところだった。
車を駐車場に停め、彼女の手を取って人混みの中歩いていく。
「きれいですね」
彼女の瞳はそのイルミネーションの風景に釘付けになっていた。大きな瞳に色とりどりのイルミネーションが反射してキラキラしていた。
「うん、きれいだね」
俺はイルミネーションより、彼女がきれいて目が離せない。
彼女を見つめていると、寒さを忘れて心が暖かくなった。
おわり
二一二、イルミネーション
目を覚ますと、肩と腕に重みがあって痺れを覚えた。見つめると、そこには愛おしい彼女が俺の腕にしがみつきながら眠っている。
昨日、めちゃくちゃ凹んだ俺を、なにか言う訳ではなく、ただそばにいてくれた彼女。
そして、そのまま眠ったんだな。
この痺れは危ういけれど、こうやって彼女が寄り添ってくれることに愛情を感じて胸が暖かくなった。
こうやって、彼女は俺に溢れんばかりの想いをくれるから、俺は俺のやり方で彼女に愛情を注いで行こうと思った。
おわり
二一一、愛を注いで
いつもの通りに笑った。
はずだったんだけどな。
今日、仕事でモヤモヤすることがあって、ドス黒い感情が渦巻いて仕方がなかった。
それでも表面上は笑顔の仮面を付けて仕事をする。職場はそれで良かった。
家に帰ると、いつもの通りに恋人が胸に飛び込んでくる。その瞬間、心が軽くなるのが分かって俺は彼女を力いっぱい抱きしめてしまった。彼女の香りも欲しくて肩に顔を埋めるほどに。
力を抜いて彼女を見つめる。そして普段通りに笑った。自然に笑ったと思ったんだ……。
俺を見上げる彼女はひとつ微笑んで、俺を強く抱きしめてきた。さっき俺がしたくらいの強さで。
そのまま何も言わず彼女を抱きしめた。
多分、俺が凹んでいることに彼女は気がついてる。
でも俺が言葉に出さないから、彼女は聞くことをしない。俺が言葉にするのを待ってくれる。いや、話さなくても隣にいてくれる。
それは、心と心が繋がっている気がして愛しさが増した。
彼女と出会えて、本当に良かった。
おわり
二一〇、心と心
「ただいま〜」
玄関から大好きな彼の声が聞こえた。私はのんびりソファに座っていたのを飛び上がって彼を迎えに行く。
日課になっている〝ただいま〟と〝おかえり〟のハグを迷わずしにいった。
そして、言葉と共に彼の胸の中に飛び込む。
「おかえりなさいっ!!」
いつものギューをしていると、彼も抱きしめ返してくれた。
いつもより、ずっとずっと強く。すがるような抱きしめ方に違和感をおぼえる。
多分、彼の中で何かがあったんだ。
でも彼は、それを見せないように何でもないフリをしている。
心の余裕がない時の彼のクセだ。
少しだけ抱きしめる力が緩んだから、同じようにして彼の顔を見上げると笑顔なのに陰りがある。
笑っているのに、目は笑ってない。
でも心配させないように笑う彼に、胸が締めつけられた。
聞くのは簡単だけれど、きっと話したくないだろうから、私は何でもないフリに乗る。
でも、これだけは許して。
私は大丈夫という気持ちを込めて、彼を強く抱きしめた。
おわり
二〇九、何でもないフリ