「ただいま〜」
玄関から大好きな彼の声が聞こえた。私はのんびりソファに座っていたのを飛び上がって彼を迎えに行く。
日課になっている〝ただいま〟と〝おかえり〟のハグを迷わずしにいった。
そして、言葉と共に彼の胸の中に飛び込む。
「おかえりなさいっ!!」
いつものギューをしていると、彼も抱きしめ返してくれた。
いつもより、ずっとずっと強く。すがるような抱きしめ方に違和感をおぼえる。
多分、彼の中で何かがあったんだ。
でも彼は、それを見せないように何でもないフリをしている。
心の余裕がない時の彼のクセだ。
少しだけ抱きしめる力が緩んだから、同じようにして彼の顔を見上げると笑顔なのに陰りがある。
笑っているのに、目は笑ってない。
でも心配させないように笑う彼に、胸が締めつけられた。
聞くのは簡単だけれど、きっと話したくないだろうから、私は何でもないフリに乗る。
でも、これだけは許して。
私は大丈夫という気持ちを込めて、彼を強く抱きしめた。
おわり
二〇九、何でもないフリ
12/11/2024, 11:58:36 AM