目を覚ますと、肩と腕に重みがあって痺れを覚えた。見つめると、そこには愛おしい彼女が俺の腕にしがみつきながら眠っている。
昨日、めちゃくちゃ凹んだ俺を、なにか言う訳ではなく、ただそばにいてくれた彼女。
そして、そのまま眠ったんだな。
この痺れは危ういけれど、こうやって彼女が寄り添ってくれることに愛情を感じて胸が暖かくなった。
こうやって、彼女は俺に溢れんばかりの想いをくれるから、俺は俺のやり方で彼女に愛情を注いで行こうと思った。
おわり
二一一、愛を注いで
いつもの通りに笑った。
はずだったんだけどな。
今日、仕事でモヤモヤすることがあって、ドス黒い感情が渦巻いて仕方がなかった。
それでも表面上は笑顔の仮面を付けて仕事をする。職場はそれで良かった。
家に帰ると、いつもの通りに恋人が胸に飛び込んでくる。その瞬間、心が軽くなるのが分かって俺は彼女を力いっぱい抱きしめてしまった。彼女の香りも欲しくて肩に顔を埋めるほどに。
力を抜いて彼女を見つめる。そして普段通りに笑った。自然に笑ったと思ったんだ……。
俺を見上げる彼女はひとつ微笑んで、俺を強く抱きしめてきた。さっき俺がしたくらいの強さで。
そのまま何も言わず彼女を抱きしめた。
多分、俺が凹んでいることに彼女は気がついてる。
でも俺が言葉に出さないから、彼女は聞くことをしない。俺が言葉にするのを待ってくれる。いや、話さなくても隣にいてくれる。
それは、心と心が繋がっている気がして愛しさが増した。
彼女と出会えて、本当に良かった。
おわり
二一〇、心と心
「ただいま〜」
玄関から大好きな彼の声が聞こえた。私はのんびりソファに座っていたのを飛び上がって彼を迎えに行く。
日課になっている〝ただいま〟と〝おかえり〟のハグを迷わずしにいった。
そして、言葉と共に彼の胸の中に飛び込む。
「おかえりなさいっ!!」
いつものギューをしていると、彼も抱きしめ返してくれた。
いつもより、ずっとずっと強く。すがるような抱きしめ方に違和感をおぼえる。
多分、彼の中で何かがあったんだ。
でも彼は、それを見せないように何でもないフリをしている。
心の余裕がない時の彼のクセだ。
少しだけ抱きしめる力が緩んだから、同じようにして彼の顔を見上げると笑顔なのに陰りがある。
笑っているのに、目は笑ってない。
でも心配させないように笑う彼に、胸が締めつけられた。
聞くのは簡単だけれど、きっと話したくないだろうから、私は何でもないフリに乗る。
でも、これだけは許して。
私は大丈夫という気持ちを込めて、彼を強く抱きしめた。
おわり
二〇九、何でもないフリ
俺が彼女を明確に個人として……いや、意識するきっかけになったのは一つの大好きな飲みもの。それはクリームソーダ。
そのクリームソーダのグッズを配るのが大好きな俺は、以前から怪我をしてしょっちゅう通院してくる彼女と普通に話す仲になっていた。
痛いと悲しそうな顔をする彼女を元気づけたくて、クリームソーダのグッズをあげると、驚くほど満面の笑顔を見せてくれた。
本当に驚いたんだ。花が咲くってこういうことを言うのかなって思うくらいの笑顔だったから。
「嬉しい、クリームソーダ大好き!!」
その言葉も俺には嬉しかった。俺の周りにはもうハイハイと流す輩が多かったから。
「配るの好きだから、またあげるよ」
「え、嬉しい」
「じゃあ、今度また別のものをプレゼントしよう〜」
「やったー!」
こんな純粋な反応も……正直初めてだったんだ。
そこから俺たちはクリームソーダ大好き仲間になった。
その後、彼女に渡したものが分からなくなって、まだ集めているか聞いた時。彼女は「まだ集めてる」と即答して、宝箱に全部大切にしまってくれていた。
「全部が私のたからもの!!」
そう笑う彼女に、初めて見た笑顔を思い出したんだ。花が咲きほこるような笑顔に、胸が高鳴るのを抑えられない。
そして、俺の中で彼女は仲間から、意識する人に変わったんだ。
そんな、小さなきっかけ。
おわり
二〇八、仲間
クリスマスシーズンが近くなり、クリスマスマーケットを目的に仕事終わりのデート。イルミネーションがキラキラ輝いて、彼女の瞳も同じように輝いていた。
俺は彼女を見つめている。寒さで頬を赤くしながらイルミネーションを見上げていた。
指先を口元に寄せて息を吹きかけるて暖めている。
「あれ、手袋は?」
「会社に置いてきちゃいました」
照れたように笑うけれど、彼女の指先は寒さで赤くなっていた。
俺は手袋を片方だけ外して、彼女に向ける。
「片方、貸してあげる」
「片方だけ?」
「片方だけ〜」
彼女はちょっとだけ不服そうに唇をとがらせる。でもいたずらっ子のように微笑んでいた。
彼女が俺の手袋をすると、手袋をしていない方の手を取って恋人繋ぎをする。
彼女は目を丸くして俺を見つめてくるから、また可愛いんだ。彼女と繋いだ手をそのまま俺のコートのぽっけの中に入れる。
やっぱり驚いていたけれど、直ぐに笑顔になった。だから俺も得意げな顔で彼女に言った。
「これならどっちも暖かいでしょ」
おわり
二〇七、手を繋いで