先日、恋人の彼と一緒に結婚式にお呼ばれした。
この都市に来て、誰よりも尊敬している人が幸せそうな笑顔を見られて、何よりも嬉しくなった。
大きな花束を花瓶に収めて居間のテーブルに置く。凛と咲く大輪のカサブランカの花束。これは、花嫁が私たちにこっそりと渡してくれたブーケ。
私はあの日にこっそりと彼が言ってくれた言葉を思い出す。
『こんどは、おれたちのばん』
ブーケを見て、私の口角が上がる。
次は、あなたとわたしで。
おわり
一七五、あなたとわたし
外を覗くと雨が降ってきた。
雨というか霧雨みたい。
強い雨でもないけれど、傘も役に立ちそうにない細かい雨だった。
雨が降ると、事故が増えて怪我人も増えるって恋人が言っていた。そうなると車修理の仕事も増えるのかなー。
この時間はちょうどワンオペだから誰もいなくて、会社も静かで、雨の静かな音が響き渡る。
この都市には知り合いの人が沢山いる。大好きな彼も。みんな事故も怪我もないといい。
柔らかい雨だけれど、早くやんでほしいな。
おわり
柔らかい雨
彼女の修理屋にカスタムの依頼をしていたのに、俺の失敗で動けなくなった。
もう、バカ過ぎて情けなくなる。
動けるようになるまで少し時間がかかるから、俺は諦めて動けるようになるまで待つことにした。
そんな中、この場所を伝えていなかったのに、彼女が出張修理に来てくれた。
失敗の悔しさ、彼女を待たせてしまう申し訳なさでモヤモヤしている時に、笑顔の彼女が来てくれた瞬間、一筋の光が見えた気がしたんだ。
その時が夜だったこともあったから余計にそう思ったかもしれないけれど。
それからかも。
彼女に嫌われたくない、もう少しそばにいたいって気持ちが傾いたのは。
あの日、君は俺の心を捉えたんだよ。
おわり
一七三、一筋の光
時々、知り合いから子供を預かるんだけれど、子供の世話がとても楽しくて、「預かれる?」と聞かれると、余程じゃない限りは預からせてもらうことにしている。
もう一つの理由は、まあ、お互い先を見据えているからというのもあるんだけれどね。
何度かお世話させてもらっている赤ちゃんを預かった。少しずつ俺たちのことも慣れてきたみたいで、今まで以上に笑顔が多かった。
だからこそさ、お別れが寂しいんだよね。
両親がお出迎えしてくれて、満面の笑みでバイバイしてくれる。
彼女も笑顔で手を振っているけれど、俺は分かるよ。君をずっと見ているから。
楽しそうな笑顔を向けているけれど、その背中はとても寂しそうだった。
俺は彼女の手を取ると、彼女が驚いてこっちを見てくれる。俺はゆっくりと瞬きをひつとすると、彼女の気持ちを理解しているのが伝わったようで、くしゃりと表情を歪ませて俺に抱きついた。
いつか。
いつか、俺たちの天使を迎えようね。
おわり
一七二、哀愁を誘う
朝、顔を洗いながら鏡の中の自分を見る。
明らかに童顔で、少し中性的だから〝かわいい〟と言われてしまうのは分かっている。
でも俺は男だから、せめて恋人には格好いいところを見せたい!
「格好よくなりたいなぁ……」
「格好いいですよ?」
小さく呟いたのに、たまたま通りかかった恋人にそう返答された。
「そんなこと思ってないでしょ?」
「え? 思っていますよ」
「かわいいってよく言うじゃん」
「それはかわいいからです」
「格好よくないじゃん!」
「格好いいんですよぅ」
俺は納得いかなくて頬をふくらませる。すると空気の入った両頬に彼女の手が添えられた。
空気を吐き出して、唇を尖らせると彼女はくすっと笑ってくれる。
「かわいい」
「ほら、格好よくない」
彼女は頬に添えられた手を首の方に伸ばして俺を抱き寄せる。自然と耳が彼女の唇の近くなった。
「格好いいところは、私だけが知っていればいいんです」
少しだけ悔しい気持ちはあるけれど、彼女だけは俺のことを格好いいって思ってくれるなら、それでいいや。
そう思って彼女を抱きしめ返した。
――
「お仕事している姿は誰よりも格好いいのに……。なんでそこに気が付かないのかな? ……でもそこがいいからナイショにしておこ」
おわり
一七一、鏡の中の自分