とある恋人たちの日常。

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9/17/2024, 11:50:42 AM

 少し前まではひまわりが一面を占めていた。それが今は季節は移り変わり、場所も変えて今度は色とりどりの秋桜が大地を飾る。
 
「きれいですねぇ……」
「そうだねぇ」
 
 風に身体を委ねる秋桜たちは、その身を寄せあい揺れ動いた。それに合わせるように青年は恋人の手に触れ、自然の指を絡めあう。
 
 優しい風が頬を撫でると、心地よい風にほんの少しだけ秋を感じた。
 
「秋も近づいているんですねぇ……」
「そうだねぇ」
 
 少し前と同じトーンで返す青年に不満を持ったのか、彼女の頬は少し膨らんで見上げてくる。
 
「聞いてますか?」
「聞いてるよ。風も心地いいし、秋も感じてる。それに……」
「それに?」
 
 きょとんと首を傾げる彼女。
 
「んー……なんでもない」
「なにそれー!!」
 
 花畑の中にいる彼女が綺麗で見惚れていた。
 そんな言葉を心にしまい、頬をふくらませたままの彼女に向けて微笑んだ。
 
「大好きってこと!」
 
 
 
おわり
 
 
 
一二四、花畑

9/16/2024, 12:16:30 PM

 
 仕事が終わり、家に帰って恋人とのんびり過ごす夜。
 疲れた身体をソファに埋めながら、今日何があったのか彼女と話し合っていると、突然窓の外から強い雨の音がした。
 水を弾く音、外壁を叩く音が尋常でなくて、ふたりはカーテンを開けて外を見つめた。
 
「雨、すっご……」
「ゲリラ豪雨ですかね?」
 
 今日、雨の予定はなかったはずだと彼女はスマホで天気予報を確認する。
 俺も彼女のスマホの画面を覗くと、一緒に見られるように画面をかたむけてくれる。
 
 レーダーを確認する限り一過性の雨。
 
「ゲリラ豪雨だね……」
 
 バケツをひっくり返したような雨とはまさにこの事……いや、バケツじゃ済まない雨の量だった。
 
「だいじょうぶだよ〜……」
 
 空に向かって、彼女が小さく囁いた。
 
「なにが?」
 
 俺の何の気なしに返してしまった言葉を聞くと、聞かれていたことに驚いたようで頬を赤らめる。
 
「いやぁ、聞かないでー!」
「え、そっちが言ったんじゃん」
「それでも聞かないで!」
「理不尽!!」
 
 背伸びをして俺の耳を塞ごうと手を伸ばすけれど、両手をしっかり捕まえてしまった。
 すると、観念したのか頬と耳を赤くさせたまま彼女は腕の力を抜く。俺も抵抗が無くなったから両手を離しつつ、彼女の腰に腕を回した。
 
「なにが〝だいじょうぶ〟なの?」
 
 唇を尖らせつつ、彼女は俺に体重を預けてくれた。
 
「空が……泣いているみたいだなって思っちゃって……」
「ゲリラ豪雨?」
「はい」
 
 それで、〝だいじょうぶだよ〟の言葉なのか。
 
 彼女の感性は少し独特ではあるけれど、俺にはそれが愛らしく思えてしまった。
 
「雷だとお腹痛いのかなって……」
「ぶはっ!!」
 
 予想していなかった斜め上の言葉に吹き出すのを抑えきれなかった。
 彼女はぷっくりと頬を膨らませ、顔を上げて俺の胸を叩く。
 
「笑わないでー!」
「ごめんごめん」
 
 俺は再度彼女を抱きしめる腕に力を入れた。
 
「君が心配しているなら、だいじょうぶだね」
「ん……」
 
 天気にも、彼女の思いが伝わるといいな。
 
 
 
おわり
 
 
 
一二三、空が泣く

9/15/2024, 11:48:36 AM

 
『俺は今、大変疲れています。』
 
 そんなことを恋人にLINEした。
 今日は出勤してから恐ろしいレベルで患者さんも、救助要請やら大量に来て休憩時間も全然取れなかった。
 
 割と精神的にも疲弊してしまって、癒し欲しさに送ってしまった。
 呆れられてもいい。後悔はない。俺は癒しを求めています。
 
 ご飯を食べる時間もなく追い立てられるほど忙しかったが、ようやく落ち着いた。
 ヘロヘロになった隊員全員が少しずつ順番で休憩に入る。
 それがやっと俺に回ってきた。
 
 重い足取りで休憩場所に行くと、ようやくスマホを取り出した。
 彼女からのLINEがちゃんと届いていて、俺はそれを開く。
 
 ――
 
 読み終えたあと、俺は口元を手で隠した。口角が上がり、ニヤニヤするのを抑えられない。挙句に耳も熱くなってくる。あ、これ顔も赤くなっている気がする。
 
 俺は頬を叩いて気合を入れ、用意してあったお弁当を口に運んだ。
 
「うっし、元気出た!!」
 
 声も聞きたい。会いたいし、抱きしめて癒されたいけれど、彼女も今は仕事中。
 
 俺はお礼のメッセージを送った。
 
「元気出た、ありがと。俺も大好きだよ」
 
 
 
おわり
 
 
 
一二二、君からのLINE

9/14/2024, 11:43:31 AM

 
 ごめん、ごめんね。
 俺は医者だから、何かあった時は恋人の君より患者を選ぶと思う。
 
 俺は、命が燃え尽きるまで医者だから。
 
 そう伝えた時、彼女は俺を強く抱き締めてくれた。
 
「寂しくないと言ったら嘘になりますが、それでも……そう言うあなただから好き。だから、それでいいんです」
 
 
 
おわり
 
 
 
一二一、命が燃え尽きるまで

9/13/2024, 12:54:32 PM

 
 彼女が目を覚ますと、背中から恋人の温もりに包まれていることに気がついた。
 
 眠りについた時、こんな状態だったかな?
 
 彼女はそんなことを考える。
 だが無意識でも、意識があった状態でも、今のように自分のだと主張するように抱き締められるのは嬉しい。
 
 彼女は青年を起こさないように気をつけながらベッドを抜け出した。少し喉が渇いたので、冷蔵庫からペットボトルを取り出して、口に含む。
 居間のカーテンを少し開けると、暗い空の端にうっすらと光が見え始めていた。日が昇りきるまで、もう少し時間が必要のようだった。
 
 遠くに視線を送ると、ビル群の明かりがチラチラと見える。
 住んでいる場所は、そんなに栄えているわけでは無いからこそ、グラデーションのかかった空と、ビルの光に心が奪われた。
 
 すると、腰にするりと手が絡まる。同じタイミングで恋しい人の温もりが肩にかかった。
 
「居ない〜……」
 
 青年は、なんとも気の抜けた声を発する。恐らく完全に目が覚めたわけではないのだろう。あるはずの温もりが無くなったことに気がついて、ぽやぽやの状態で探しに来た。そんなところか。
 
 彼女は振り返り、青年を優しく抱きしめる。慣れた愛しい香りに心が落ち着いていく。
 きっと彼も同じものが欲しかったのだ。
 
「起こしてごめんなさい。寝ましょ」
「うん……」
 
 目をほとんど開けることない青年の手を引きながら、冷たくなったベッドに潜り込む。
 身体を寄り添わせながら、瞳を閉じて意識を手放した。
 
 
 
おわり
 
 
 
一二〇、夜明け前

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