とある恋人たちの日常。

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 仕事が終わり、家に帰って恋人とのんびり過ごす夜。
 疲れた身体をソファに埋めながら、今日何があったのか彼女と話し合っていると、突然窓の外から強い雨の音がした。
 水を弾く音、外壁を叩く音が尋常でなくて、ふたりはカーテンを開けて外を見つめた。
 
「雨、すっご……」
「ゲリラ豪雨ですかね?」
 
 今日、雨の予定はなかったはずだと彼女はスマホで天気予報を確認する。
 俺も彼女のスマホの画面を覗くと、一緒に見られるように画面をかたむけてくれる。
 
 レーダーを確認する限り一過性の雨。
 
「ゲリラ豪雨だね……」
 
 バケツをひっくり返したような雨とはまさにこの事……いや、バケツじゃ済まない雨の量だった。
 
「だいじょうぶだよ〜……」
 
 空に向かって、彼女が小さく囁いた。
 
「なにが?」
 
 俺の何の気なしに返してしまった言葉を聞くと、聞かれていたことに驚いたようで頬を赤らめる。
 
「いやぁ、聞かないでー!」
「え、そっちが言ったんじゃん」
「それでも聞かないで!」
「理不尽!!」
 
 背伸びをして俺の耳を塞ごうと手を伸ばすけれど、両手をしっかり捕まえてしまった。
 すると、観念したのか頬と耳を赤くさせたまま彼女は腕の力を抜く。俺も抵抗が無くなったから両手を離しつつ、彼女の腰に腕を回した。
 
「なにが〝だいじょうぶ〟なの?」
 
 唇を尖らせつつ、彼女は俺に体重を預けてくれた。
 
「空が……泣いているみたいだなって思っちゃって……」
「ゲリラ豪雨?」
「はい」
 
 それで、〝だいじょうぶだよ〟の言葉なのか。
 
 彼女の感性は少し独特ではあるけれど、俺にはそれが愛らしく思えてしまった。
 
「雷だとお腹痛いのかなって……」
「ぶはっ!!」
 
 予想していなかった斜め上の言葉に吹き出すのを抑えきれなかった。
 彼女はぷっくりと頬を膨らませ、顔を上げて俺の胸を叩く。
 
「笑わないでー!」
「ごめんごめん」
 
 俺は再度彼女を抱きしめる腕に力を入れた。
 
「君が心配しているなら、だいじょうぶだね」
「ん……」
 
 天気にも、彼女の思いが伝わるといいな。
 
 
 
おわり
 
 
 
一二三、空が泣く

9/16/2024, 12:16:30 PM