とある恋人たちの日常。

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 彼女が目を覚ますと、背中から恋人の温もりに包まれていることに気がついた。
 
 眠りについた時、こんな状態だったかな?
 
 彼女はそんなことを考える。
 だが無意識でも、意識があった状態でも、今のように自分のだと主張するように抱き締められるのは嬉しい。
 
 彼女は青年を起こさないように気をつけながらベッドを抜け出した。少し喉が渇いたので、冷蔵庫からペットボトルを取り出して、口に含む。
 居間のカーテンを少し開けると、暗い空の端にうっすらと光が見え始めていた。日が昇りきるまで、もう少し時間が必要のようだった。
 
 遠くに視線を送ると、ビル群の明かりがチラチラと見える。
 住んでいる場所は、そんなに栄えているわけでは無いからこそ、グラデーションのかかった空と、ビルの光に心が奪われた。
 
 すると、腰にするりと手が絡まる。同じタイミングで恋しい人の温もりが肩にかかった。
 
「居ない〜……」
 
 青年は、なんとも気の抜けた声を発する。恐らく完全に目が覚めたわけではないのだろう。あるはずの温もりが無くなったことに気がついて、ぽやぽやの状態で探しに来た。そんなところか。
 
 彼女は振り返り、青年を優しく抱きしめる。慣れた愛しい香りに心が落ち着いていく。
 きっと彼も同じものが欲しかったのだ。
 
「起こしてごめんなさい。寝ましょ」
「うん……」
 
 目をほとんど開けることない青年の手を引きながら、冷たくなったベッドに潜り込む。
 身体を寄り添わせながら、瞳を閉じて意識を手放した。
 
 
 
おわり
 
 
 
一二〇、夜明け前

9/13/2024, 12:54:32 PM