とある恋人たちの日常。

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9/9/2024, 1:37:27 PM


 今日届いたマグカップにカフェオレを入れる。
 彼女には〝俺が作ったマグカップ〟を渡した。
 
 受け取った後、カフェオレを飲む訳ではなく目を細めて愛おしそうにマグカップを見る。
 
 俺の手元には〝彼女が作ったマグカップ〟がある。
 
 この前の旅行の手作り体験で、お互いに贈りあった世界に一つだけのマグカップ。
 
 まさかふたり共、お互いのイメージの動物のウサギとパンダが寄り添っている絵を描いているとは思わなかったけれどね。
 
「宝物です」
「俺も! ありがとうね!」
「こちらこそ、ありがとうございます!」
 
 
 
おわり
 
 
 
一一六、世界に一つだけ

9/8/2024, 11:04:38 AM

一一五、胸の鼓動
 
 彼女と恋人になり、一緒に暮らすようになって、それなりに経つ。それなのに――
 
 いつものように仕事から帰ってふたりで過ごす、なんでもない夜。疲れた身体をソファに預けた。
 隣に座る彼女の体重が寄りかかったかと思うと、彼女の頭も俺の方に乗る。そして、俺の指に白い細い指が絡められて恋人繋ぎをした。
 
「大好きです」
 
 普段は笑顔と共に向けられる言葉。
 でも今日は疲れたのか、なにか心に引っかかっているのか、やるせないような表情をしていた。
 
 一緒にいる時間が長くなったから分かる。言葉にできない不安がある時に零す〝大好き〟の言葉。
 
「俺も大好きだよ」
 
 安心を伝えるように、優しく耳元に囁きながら強く抱き締めた。
 縋るように抱きつく彼女と目が合うと、安心したのかふわりと笑う。その姿はいつもの幼さではなく、大人の女性の表情。その艶っぽさを感じさせる恋人に俺の鼓動が高鳴った。
 
「俺の方が離れられないから安心して」
 
 そう告げて、改めて強く彼女の身体を抱き締めた。
 
 
 
おわり
 
 
 
一一五、胸の鼓動

9/7/2024, 11:06:07 AM


 九月はほんの少しだけ楽しみな季節。
 来年に向けてスケジュールを管理するアナログの手帳が沢山出る時期だ。
 
 世の中はスマホやパソコンでスケジュールを組んでいる。けれど、私はスケジュールを手帳にしているのだ。
 やっぱり忘れないようにするなら、手書きが一番だと思っている。
 
 今年の新しい手帳はどうしても欲しいものがあった。私も彼も大好きな青空をカバーにした手帳が出るのだ。これは絶対に欲しい。
 しかも、どの手帳にするか悩んでいる時に、後ろから彼が何を悩んでいるかを聞いて、この手帳を見せたら、彼も使ってみたいという話になった。
 
 発売日当日。
 サーバ落ちや、接続できないことを繰り返しながら、歴戦の猛者を潜り抜けて、欲しい手帳を買うことが出来た!
 
 今日はふたりの仕事が休みの日で、待ち望んだ手帳が手元に届いた。
 
 少し大きなダンボールを受け取ると、私は彼の元へ足早に行き、心踊るようにそのダンボールを開ける。
 そこには購入のお礼のメッセージと共に二冊の手帳と、二冊分の手帳カバーが入っていた。
 
 彼はダンボールの中身を取り出し、それぞれの前に手帳とカバーのセットで置く。
 
 ああ、ダメ!
 顔がにやけちゃう!!
 
 それを見たのか、彼がくすくす笑った。
 
「楽しみだった?」
「そりゃあもう!! それに、来年はお揃いですね!」
 
 彼は目を細めて、優しく微笑んでくれる。
 
「どう使うか、参考にさせて!」
「はい!」
 
 スケジュールだけじゃなくて、日記にも、他の記録帳にも使える手帳。
 なにより、大好きな彼とお揃いになったのは嬉しくて、毎年使っている手帳だけれど、来年はもっと楽しく使えそうだと思った。
 
 届くまでもそうだったけど、実際に使うまでも心が踊るような気持ちだった。
 
「あなたを思い出せるものか増えました!」
 
 
 
おわり
 
 
 
一一四、踊るように

9/6/2024, 12:10:33 PM


 
 ピピピピ、ピピピピ――
 
 朝を告げる目覚まし時計の音が鳴り響く。恋人たちは揃って音の鳴る方に向かって手を伸ばした。
 
 ピピピッ――
 
 青年の方が先に目覚まし時計に手が届く。その上にもったりと彼女の手が重なった。
 
「あさぁ……」
 
 なんとも言えない気の抜けた彼女の声が耳に届く。青年は手のひらを回転させて重なった彼女の手を掴んで自分の頬に持っていくと寝ぼけ眼で頬擦りした。
 
「本日の仕事はぁ……?」
「休みですぅ……」
「俺も休みぃ……」
 
 ふたりは力の抜けた会話を繰り広げると、青年はゆっくりと瞳を開けて彼女を見つめる。
 
「……起きる?」
 
 青年の言葉に、彼女は片方だけ瞳を開けてぼんやり考えて、もっさりと身体を起こした。
 
「起きます……」
 
 青年は彼女の手を離さないまま、手の甲に唇を寄せた。
 
「じゃあ、起きようか」
「あい……」
 
 仕事であればふたり共、もう少しシャッキリと起きるのだが、休みだと気が抜ける。
 青年も身体を起こして、彼女の頬にキスを贈ると、ぽやぽやした彼女が青年にもたれ掛かった。
 
「ほーら、起きるよ。起きないとくすぐっちゃうよ!」
「いやだぁ、起きますぅ……」
 
 カクンッと彼女の重さが青年の肩に伸し掛った。
 
「……」
 
 ほんの一時だけ間を置いて、青年は彼女を精一杯くすぐって起こしてあげた。
 
 
 
おわり
 
 
 
一一三、時を告げる

9/5/2024, 1:04:34 PM

 
「わっ!?」
 
 突然、恋人が背中に抱きついてきた。背中に頬を擦り寄せて柔らかい温もりに胸が高鳴ってしまう。
 
「この前は旅行、ありがとうございました。とっても楽しかったです」
 
 抱きしめながら、彼女は俺の手に自分の手を重ねる。すると手の中にころんと何かが転がった。
 
「なに?」
 
 何を渡されたのか覗いてみると、コルクで栓をされた小瓶だった。中には、砂浜の上に淡い色の貝殻と、渦を巻いた貝殻が転がっているように見えた。
 
「お土産です。この前の海でこっそり拾って作ってみました。可愛いでしょ」
「可愛い……」
 
 可愛いのは小瓶もそうだけれど、「手作りの思い出をお土産に作ってくれた」ことが、また可愛いと思ってしまった。
 
「連れて行ってくれたことが、楽しかったですし、嬉しかったので!」
 
 俺は彼女に振り返って、また強く抱き締めた。
 
 買ってくるお土産も良いけれど、こういうお土産も宝物になると胸が暖かくなった。
 
「ありがとうね」
 
 
 
おわり
 
 
 
一一二、貝殻

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