とある恋人たちの日常。

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一一五、胸の鼓動
 
 彼女と恋人になり、一緒に暮らすようになって、それなりに経つ。それなのに――
 
 いつものように仕事から帰ってふたりで過ごす、なんでもない夜。疲れた身体をソファに預けた。
 隣に座る彼女の体重が寄りかかったかと思うと、彼女の頭も俺の方に乗る。そして、俺の指に白い細い指が絡められて恋人繋ぎをした。
 
「大好きです」
 
 普段は笑顔と共に向けられる言葉。
 でも今日は疲れたのか、なにか心に引っかかっているのか、やるせないような表情をしていた。
 
 一緒にいる時間が長くなったから分かる。言葉にできない不安がある時に零す〝大好き〟の言葉。
 
「俺も大好きだよ」
 
 安心を伝えるように、優しく耳元に囁きながら強く抱き締めた。
 縋るように抱きつく彼女と目が合うと、安心したのかふわりと笑う。その姿はいつもの幼さではなく、大人の女性の表情。その艶っぽさを感じさせる恋人に俺の鼓動が高鳴った。
 
「俺の方が離れられないから安心して」
 
 そう告げて、改めて強く彼女の身体を抱き締めた。
 
 
 
おわり
 
 
 
一一五、胸の鼓動

9/8/2024, 11:04:38 AM