「私を閉じ込めておきたいって思ったこと、ありますか?」
不意に、恋人から問われた質問に言葉を失った。中々に重い質問に思う。
「うーん、どうだろう……」
俺は視線を逸らしながら、はぐらかす言葉を探す。だって、思ったことあるもん。
「思ったこと、ありますか?」
なんでそんなふうに思ったのか分からないけれど、誤魔化しはきかない気がした。
俺は大きくため息をついて、恋人をしっかり見つめた。
「あるよ」
意外だと、彼女の表情は語った。
苦笑いしながら、俺は言葉を続ける。
「だって、自分が目を引くほどに可愛いって分かってないでしょ」
「可愛くないですよ」
「ほら分かってない」
彼女は不服そうに俺を見上げるけれど、俺だってこれは譲れない。
「可愛いし、スタイルだって良いんだよ」
俺が本当に好きになったのは、きみの優しさ。でも、それは言葉にしない。これは俺だけが知っていればいいんだ。
「そっちだって、モテるじゃないですか」
「俺のはモテるんじゃなくて、からかわれているだけ!」
彼女の周りの異性の視線を見れば分かるよ、俺と同じ熱を持って見ていることくらい。
だけど、彼女たちは違うもん。
「鈍感です!」
「どっちが!?」
ぷくぷくに頬を膨らませた彼女。
俺は、その頬を人差し指で押して萎ませる。
「ぶー、なにするんですか!?」
俺はその表情に笑ってしまった。
「いや、やっぱり可愛いな〜って」
「からかってます?」
彼女は少し不満そうに俺を見ているけれど、本気で怒っていないのは分かってる。
「からかってないよ」
くすくす笑ってしまったけれど、改めて彼女をしっかり見つめた。
「実際にそんなことはしないけど、閉じ込めたいと思うくらい、好きってこと」
おわり
お題:鳥かご
「男女の友情って存在すると思う?」
俺が洗ったお皿を受け取り、恋人の彼女は手元のタオルで拭いている中、彼女に疑問を投げてみた。
「突然どうしたんですか?」
俺は視線を彼女に向けることなく、丁寧に洗い物をしながら言葉を続ける。
「いやね、今日仕事中にそんな話題になってさ。俺はあると思うんだ。今一緒に仕事してくれる相棒も女性だし、俺を教育してくれたバディも女性だし」
その言葉を言い切って、しっかりと彼女を見つめた。
相棒もバディも同じ意味だと、突っ込まないでいてくれるのはありがたい彼女です。
「彼女たちに友情はあっても、俺の恋人は君だから」
友情と愛情は紙一重だ。それは師匠にあたるバディが教えてくれた。
でも俺は、職場の異性に友情を持っていても、彼女のような愛情は持てない。
「うーん……難しいですね」
異性の友情は、友になった異性に恋人が出来た場合、嫉妬されてしまう、もしくはしてしまう。異性の友人に友情以上のものが見えると言われてしまうのだ。
「俺が仕事で異性とペアを組んでいたら、妬けちゃう?」
「……どうでしょう。私も仕事で異性と仕事しますけれど、妬きます?」
ふたりとも洗い物と片付けの手を止めて、うーんと考えてしまった。すると彼女は顔を上げる。
「……異性とか同性とか、関係ない気がします」
「どうゆうこと?」
「状況によって相手が男性でも女性でも、妬いちゃう時はあるかも」
目からウロコな回答だった。
俺がそこに思い至らなかっただけで、確かにそうかも。
彼女の会社の社長は彼女よりお姉さんだけれど、彼女を大切にして家族のように扱っている。
そこには、俺が入れない絆があるし、言い換えればそこも友情だ。いや、家族愛か?
それでも入れない絆に、寂しさを覚える時は……確かにある。
もちろん、普段からそう思うわけじゃない。
明確に入れないものがあると分かる瞬間に、ほんの少しだけ感じるんだ。
「難しいー!!」
最後のお皿を彼女に渡しながら、叫ぶと「難しいですね」と笑いながら同意してくれる。そのお皿を拭き、棚にしまいながら彼女はぽつりとこぼした。
「……答えがあるものじゃないのかも、ですね」
「ん?」
「明確な括りをしなくても、曖昧でもいいものなのかも」
棚の扉を締めてから、俺に振り返る。
「私たちも、最初は友情から……じゃないんですか?」
俺は彼女の言葉に頭を捻る。
うーん、俺の場合は友情よりも先に、庇護欲の方が先だった。友だち……まあ、確かにあったけれど、すぐに特別と思っちゃったからな。
「違うんですか?」
俺は思った言葉をそのまま伝えた。
みんなとは違う、明確な感情は確かにあったのだから。
その日はずっとその事を話した。
いい加減に眠ろうとなった時に、ふたりで至った結論は、「明確な結論が出せるものじゃない」というものだった。
難しいね。
おわり
お題:友情
「うわぁ!!!」
恋人が目の前の景色に喜びの声をあげた。
前に広がるのは、太陽の光をこれでもかと浴びた、太陽に恋した花。それも一輪ではなく、大輪のひまわり畑。
「とてもきれいですね!!」
太陽の光が燦燦と降り注ぐ、この暑い中でも、彼女の笑顔を見ていると心が踊った。
俺はスマホを取り出して、彼女にカメラを向ける。
それに気がついた彼女は、軽くポーズを決めてくれた。
「可愛く撮ってくださいね!!」
「任せてー!」
ぱしゃり。
撮った写真を確認がてら見直す。
そこには、周りに咲く大輪のひまわり達に負けないくらいの笑顔があった。
実は自信があったんだよね、彼女の笑顔を撮るの。
彼女は俺のことが好きだから、カメラを向けると絶対にいい笑顔で撮れるんだ。
こうして、俺のスマホには彼女の笑顔の写真が増えていった。
おわり
お題:花咲いて
「ねぇねぇ、もしもタイムマシンがあったなら、過去と未来どっちに行きたい?」
青年は、無邪気な笑顔を向けて恋人に問いかける。
「えーっと……」
彼女は言葉に困ったようで、苦笑いしながらどう答えるか迷っていた。
しまったなと、青年は思った。
過去について聞いた時、彼女が言葉に詰まっている姿を何度も見ていた。その事を失念していたのだ。
最初は小さな違和感。回数を重ねるごとに、それが確信になったのだ。
ただ、そのタイミングはそれなりの時間が経った後なので、どうしても忘れてしまう。
「あー……ごめん」
「え?」
青年は、謝りながら彼女の手を握る。
彼女の過去なんて、正直関係ない。
今、ここにいる彼女が大事で、誰よりも愛おしい。
「タイムマシンなんて……要らないね」
青年の言葉に驚いて、見上げる。その瞳は潤んでいた。
青年の胸は締め付けられて、彼女を抱き締める。
「はい。一緒にいて欲しいです」
彼女も青年を強く抱きし返した。
「大好きだよ」
「私も、大好きです」
過去なんてどうでもいい。
未来は……共に歩んでいけば良いんだ。
おわり
お題:もしもタイムマシンがあったなら
「あ〜つ〜い〜」
青年は茹だるような暑さの中で、恋人を待っていた。
周りを見渡して、陽射しから逃げるように日陰の中に入る。
彼女は仕事が休みなので、ランチの時間だけ会おうと数十分前に呼び出してしまった。
『暑いから病院まで迎えに行きますよ』と、言われたものの、待ち時間も少ないことが分かっているから、軽い気持ちで大丈夫と笑って返したことを後悔する。
「いくらなんでも暑すぎる……」
ほんの少し前に土砂降りの雨が降ったのが、またよろしくない。湿度を上げるだけあげ、陽射しとの相乗効果で不快になるほどの暑さになっていた。
「いやー……ごめぇん……早く来てぇ……」
ぐったりと壁に寄りかかっている青年の前に、見覚えのある車が止まった。
「お待たせしました、乗ってください!」
青年の様子を見て、慌てた恋人が窓を開けて叫ぶ。青年は言われるがまま、車に乗ってシートベルトをした。
車の中は陽射しがある中でも、とても涼しい。
「暑い中、待たせてごめんなさい」
「いや、どう考えても今回は俺が悪いでしょ。あんなに暑くなると思わなかった。はあぁっ、涼しいぃー!!」
あまりの暑さに、青年は車の中で叫び出す。限界値に近いくらい暑かったのかと、彼女は運転しながら苦笑いしていた。
「そんなあなたに、座席の後ろにあるクーラーボックスを開けて欲しいです」
「へ?」
運転しながら、嬉しそうな声の彼女に青年は首を傾げた。そのまま自分の座席の裏にあるクーラーボックスの紐を持ち上げて手前に持ってくる。
クーラーボックスを開けると、そこには固定された飲み物があった。
それは緑色の炭酸飲料に、アイスクリームと更にそのアイスの上には鮮やかなサクランボがちょんと乗っていた。
「え、クリームソーダ!!」
「はい! アイス、溶けてないですか?」
「ないない、やった! 嬉しい!!」
「ふふ、喜んでもらって良かったです。お店に着くまで飲んでてください」
「ありがとう! 今、一番欲しいものだよ!」
青年は真っ先にアイスにかぶりついた後、炭酸飲料にも関わらず、一気に飲み干した。
「ありがとう、生き返るー!」
おわり
お題:今一番欲しいもの