とある恋人たちの日常。

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「男女の友情って存在すると思う?」
 
 俺が洗ったお皿を受け取り、恋人の彼女は手元のタオルで拭いている中、彼女に疑問を投げてみた。
 
「突然どうしたんですか?」
 
 俺は視線を彼女に向けることなく、丁寧に洗い物をしながら言葉を続ける。
 
「いやね、今日仕事中にそんな話題になってさ。俺はあると思うんだ。今一緒に仕事してくれる相棒も女性だし、俺を教育してくれたバディも女性だし」
 
 その言葉を言い切って、しっかりと彼女を見つめた。
 相棒もバディも同じ意味だと、突っ込まないでいてくれるのはありがたい彼女です。
 
「彼女たちに友情はあっても、俺の恋人は君だから」
 
 友情と愛情は紙一重だ。それは師匠にあたるバディが教えてくれた。
 でも俺は、職場の異性に友情を持っていても、彼女のような愛情は持てない。
 
「うーん……難しいですね」
 
 異性の友情は、友になった異性に恋人が出来た場合、嫉妬されてしまう、もしくはしてしまう。異性の友人に友情以上のものが見えると言われてしまうのだ。
 
「俺が仕事で異性とペアを組んでいたら、妬けちゃう?」
「……どうでしょう。私も仕事で異性と仕事しますけれど、妬きます?」
 
 ふたりとも洗い物と片付けの手を止めて、うーんと考えてしまった。すると彼女は顔を上げる。
 
「……異性とか同性とか、関係ない気がします」
「どうゆうこと?」
「状況によって相手が男性でも女性でも、妬いちゃう時はあるかも」
 
 目からウロコな回答だった。
 
 俺がそこに思い至らなかっただけで、確かにそうかも。
 
 彼女の会社の社長は彼女よりお姉さんだけれど、彼女を大切にして家族のように扱っている。
 そこには、俺が入れない絆があるし、言い換えればそこも友情だ。いや、家族愛か?
 
 それでも入れない絆に、寂しさを覚える時は……確かにある。
 もちろん、普段からそう思うわけじゃない。
 明確に入れないものがあると分かる瞬間に、ほんの少しだけ感じるんだ。
 
「難しいー!!」
 
 最後のお皿を彼女に渡しながら、叫ぶと「難しいですね」と笑いながら同意してくれる。そのお皿を拭き、棚にしまいながら彼女はぽつりとこぼした。
 
「……答えがあるものじゃないのかも、ですね」
「ん?」
「明確な括りをしなくても、曖昧でもいいものなのかも」
 
 棚の扉を締めてから、俺に振り返る。
 
「私たちも、最初は友情から……じゃないんですか?」
 
 俺は彼女の言葉に頭を捻る。
 
 うーん、俺の場合は友情よりも先に、庇護欲の方が先だった。友だち……まあ、確かにあったけれど、すぐに特別と思っちゃったからな。
 
「違うんですか?」
 
 俺は思った言葉をそのまま伝えた。
 みんなとは違う、明確な感情は確かにあったのだから。
 
 その日はずっとその事を話した。
 いい加減に眠ろうとなった時に、ふたりで至った結論は、「明確な結論が出せるものじゃない」というものだった。
 
 難しいね。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:友情

7/24/2024, 12:21:04 PM