とある恋人たちの日常。

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「あ〜つ〜い〜」
 
 青年は茹だるような暑さの中で、恋人を待っていた。
 周りを見渡して、陽射しから逃げるように日陰の中に入る。
 
 彼女は仕事が休みなので、ランチの時間だけ会おうと数十分前に呼び出してしまった。
 
 『暑いから病院まで迎えに行きますよ』と、言われたものの、待ち時間も少ないことが分かっているから、軽い気持ちで大丈夫と笑って返したことを後悔する。
 
「いくらなんでも暑すぎる……」
 
 ほんの少し前に土砂降りの雨が降ったのが、またよろしくない。湿度を上げるだけあげ、陽射しとの相乗効果で不快になるほどの暑さになっていた。
 
「いやー……ごめぇん……早く来てぇ……」
 
 ぐったりと壁に寄りかかっている青年の前に、見覚えのある車が止まった。
 
「お待たせしました、乗ってください!」
 
 青年の様子を見て、慌てた恋人が窓を開けて叫ぶ。青年は言われるがまま、車に乗ってシートベルトをした。
 
 車の中は陽射しがある中でも、とても涼しい。
 
「暑い中、待たせてごめんなさい」
「いや、どう考えても今回は俺が悪いでしょ。あんなに暑くなると思わなかった。はあぁっ、涼しいぃー!!」
 
 あまりの暑さに、青年は車の中で叫び出す。限界値に近いくらい暑かったのかと、彼女は運転しながら苦笑いしていた。
 
「そんなあなたに、座席の後ろにあるクーラーボックスを開けて欲しいです」
「へ?」
 
 運転しながら、嬉しそうな声の彼女に青年は首を傾げた。そのまま自分の座席の裏にあるクーラーボックスの紐を持ち上げて手前に持ってくる。
 クーラーボックスを開けると、そこには固定された飲み物があった。
 それは緑色の炭酸飲料に、アイスクリームと更にそのアイスの上には鮮やかなサクランボがちょんと乗っていた。
 
「え、クリームソーダ!!」
「はい! アイス、溶けてないですか?」
「ないない、やった! 嬉しい!!」
「ふふ、喜んでもらって良かったです。お店に着くまで飲んでてください」
「ありがとう! 今、一番欲しいものだよ!」
 
 青年は真っ先にアイスにかぶりついた後、炭酸飲料にも関わらず、一気に飲み干した。
 
「ありがとう、生き返るー!」
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:今一番欲しいもの

7/21/2024, 12:24:38 PM