「うわぁ!!!」
恋人が目の前の景色に喜びの声をあげた。
前に広がるのは、太陽の光をこれでもかと浴びた、太陽に恋した花。それも一輪ではなく、大輪のひまわり畑。
「とてもきれいですね!!」
太陽の光が燦燦と降り注ぐ、この暑い中でも、彼女の笑顔を見ていると心が踊った。
俺はスマホを取り出して、彼女にカメラを向ける。
それに気がついた彼女は、軽くポーズを決めてくれた。
「可愛く撮ってくださいね!!」
「任せてー!」
ぱしゃり。
撮った写真を確認がてら見直す。
そこには、周りに咲く大輪のひまわり達に負けないくらいの笑顔があった。
実は自信があったんだよね、彼女の笑顔を撮るの。
彼女は俺のことが好きだから、カメラを向けると絶対にいい笑顔で撮れるんだ。
こうして、俺のスマホには彼女の笑顔の写真が増えていった。
おわり
お題:花咲いて
「ねぇねぇ、もしもタイムマシンがあったなら、過去と未来どっちに行きたい?」
青年は、無邪気な笑顔を向けて恋人に問いかける。
「えーっと……」
彼女は言葉に困ったようで、苦笑いしながらどう答えるか迷っていた。
しまったなと、青年は思った。
過去について聞いた時、彼女が言葉に詰まっている姿を何度も見ていた。その事を失念していたのだ。
最初は小さな違和感。回数を重ねるごとに、それが確信になったのだ。
ただ、そのタイミングはそれなりの時間が経った後なので、どうしても忘れてしまう。
「あー……ごめん」
「え?」
青年は、謝りながら彼女の手を握る。
彼女の過去なんて、正直関係ない。
今、ここにいる彼女が大事で、誰よりも愛おしい。
「タイムマシンなんて……要らないね」
青年の言葉に驚いて、見上げる。その瞳は潤んでいた。
青年の胸は締め付けられて、彼女を抱き締める。
「はい。一緒にいて欲しいです」
彼女も青年を強く抱きし返した。
「大好きだよ」
「私も、大好きです」
過去なんてどうでもいい。
未来は……共に歩んでいけば良いんだ。
おわり
お題:もしもタイムマシンがあったなら
「あ〜つ〜い〜」
青年は茹だるような暑さの中で、恋人を待っていた。
周りを見渡して、陽射しから逃げるように日陰の中に入る。
彼女は仕事が休みなので、ランチの時間だけ会おうと数十分前に呼び出してしまった。
『暑いから病院まで迎えに行きますよ』と、言われたものの、待ち時間も少ないことが分かっているから、軽い気持ちで大丈夫と笑って返したことを後悔する。
「いくらなんでも暑すぎる……」
ほんの少し前に土砂降りの雨が降ったのが、またよろしくない。湿度を上げるだけあげ、陽射しとの相乗効果で不快になるほどの暑さになっていた。
「いやー……ごめぇん……早く来てぇ……」
ぐったりと壁に寄りかかっている青年の前に、見覚えのある車が止まった。
「お待たせしました、乗ってください!」
青年の様子を見て、慌てた恋人が窓を開けて叫ぶ。青年は言われるがまま、車に乗ってシートベルトをした。
車の中は陽射しがある中でも、とても涼しい。
「暑い中、待たせてごめんなさい」
「いや、どう考えても今回は俺が悪いでしょ。あんなに暑くなると思わなかった。はあぁっ、涼しいぃー!!」
あまりの暑さに、青年は車の中で叫び出す。限界値に近いくらい暑かったのかと、彼女は運転しながら苦笑いしていた。
「そんなあなたに、座席の後ろにあるクーラーボックスを開けて欲しいです」
「へ?」
運転しながら、嬉しそうな声の彼女に青年は首を傾げた。そのまま自分の座席の裏にあるクーラーボックスの紐を持ち上げて手前に持ってくる。
クーラーボックスを開けると、そこには固定された飲み物があった。
それは緑色の炭酸飲料に、アイスクリームと更にそのアイスの上には鮮やかなサクランボがちょんと乗っていた。
「え、クリームソーダ!!」
「はい! アイス、溶けてないですか?」
「ないない、やった! 嬉しい!!」
「ふふ、喜んでもらって良かったです。お店に着くまで飲んでてください」
「ありがとう! 今、一番欲しいものだよ!」
青年は真っ先にアイスにかぶりついた後、炭酸飲料にも関わらず、一気に飲み干した。
「ありがとう、生き返るー!」
おわり
お題:今一番欲しいもの
初めて彼女の名前を聞いた時、聞こえが良くて心地いい名前だなと思った。
なんでだろうと考えると、とても簡単な話し。それは苗字と名前で韻を踏んでいて、それが可愛いと思ったからだ。
今思うと、最初から惹かれていたんだと分かる。
お互いに色々と時間を重ねて行くうちに、彼女が向けてくれる優しさに気がついて、恋に落ちていた。
今では……。
「ぼんやりして、どうしたんですか?」
考え事しながら、恋人を見つめていると、視線を感じたようで指摘されてしまった。
「んー……」
俺は身体を伸ばしながら、改めて彼女を見つめる。
「好きになったきっかけのひとつって、名前なのかなーって」
「私の名前ですか?」
「あくまで、きっかけのひとつだと思うって話し」
彼女は視線を上に向けながら考える。
「そうなんですか?」
「うん、可愛い名前だよね」
素直にそう伝えると、彼女の頬が赤くなる。純粋な彼女の反応は名前以上に可愛いと思った。
「あ、ありがとうございます。へへ、大切な名前だから嬉しいです」
また、素直な反応をする恋人を見て、名前だけじゃなくて全部可愛いなと笑ってしまった。
「それだと、私の苗字が変わったら、私の名前……可愛くないですか?」
その言葉に、今度は俺の耳が熱くなる。だってその言葉の意味って……。
俺は意を決して、彼女の手に自分の手を重ねた。
「可愛いよ。それ以上に、そうなったら嬉しい」
彼女の目が大きく開いたかと思うと、目を潤ませながら、これ以上にないほど愛らしい笑顔を俺にくれた。
おわり
お題:私の名前
都市の大きなイベントがあるという事で、職場のみんなと一緒に遊びに来た。
極力全員とは言いつつも、救急隊の仕事としては全員抜けることは出来ない。
今回はラッキーなことに、イベント参加の方に来られたから、残っている人達へのお土産を買って帰らないとな。
あと、実際にイベント内で色々やらかす人もいるので、連絡はすぐ取れるようにしておくのを忘れなかった。
それに、奥の売店にこのイベント限定のクリームソーダがあると聞いて、心無しか気分が高揚している俺がいた。
そう言えば……。恋人の彼女も、職場の人達と来ているはず。
実際に、イベント会場の対角線上に居るもんだから、遠いなと苦笑いしてしまった。
「どうしたんだい?」
先輩がそう声をかけてくれる。
俺は「なんでもない」と伝えたけれど、俺の視線の先を追う先輩。
「ははぁん、さては彼女を見ていたな」
結構遠いところにいるし、他のところを見ていたと思わないのが、察しがいいんだ、この人は。
「まあ……視界に入ったもので……」
「視界に入ると言うより、探したんじゃない?」
そうかな……と、俺はぼんやり考える。
みんなと一緒にいる時は、みんなとの時間を過ごしたい気持ちは確かにあった。
「みんなに気を使うのはいいんだけど、少しだけ彼女と一緒の時間を取ったらどうだい?」
「彼女と……」
「こういうイベント、一緒にいたことあったかい?」
「ない……です」
先輩に言われて、考えた。
確かにこういう都市全体のイベントになると、俺たちは職場のコミュニティを優先にしている。
それは付き合う前からもそうだった。
考えると確かに、彼女とこういうイベントを過ごしたことはない。
その時、脳裏に過ぎる、付き合う前の彼女の言葉。
『こういうイベントの時、参加出来ないことが多くて……』
寂しそうに笑っていた彼女。
あの言葉を聞いて、俺はもっと彼女を外に連れ出したくなったんだ。
その時の気持ちを思い出すと、彼女とこういう大きなイベントの思い出が全くないことに寂しさを覚えた。
「おーい、聞いているかい?」
先輩が、俺の目の前で手を振っていた。
「すみません、聞いてませんでした」
「だよな」
「あの、彼女のところに行ってきて良いですか? すぐ戻るんで!」
俺は少しだけ切羽詰まった言葉と共に、先輩を見上げた。
その言葉を聞いた先輩は、嬉しそうに笑ってくれる。
「もちろん、行っておいで。俺からみんなに伝えておくよ」
「ありがとうございます!!」
俺はスマホを取り出して彼女にメッセージを打つ。
『少しだけ、抜けられない?』
おわり
視線の先には