都市の大きなイベントがあるという事で、職場のみんなと一緒に遊びに来た。
極力全員とは言いつつも、救急隊の仕事としては全員抜けることは出来ない。
今回はラッキーなことに、イベント参加の方に来られたから、残っている人達へのお土産を買って帰らないとな。
あと、実際にイベント内で色々やらかす人もいるので、連絡はすぐ取れるようにしておくのを忘れなかった。
それに、奥の売店にこのイベント限定のクリームソーダがあると聞いて、心無しか気分が高揚している俺がいた。
そう言えば……。恋人の彼女も、職場の人達と来ているはず。
実際に、イベント会場の対角線上に居るもんだから、遠いなと苦笑いしてしまった。
「どうしたんだい?」
先輩がそう声をかけてくれる。
俺は「なんでもない」と伝えたけれど、俺の視線の先を追う先輩。
「ははぁん、さては彼女を見ていたな」
結構遠いところにいるし、他のところを見ていたと思わないのが、察しがいいんだ、この人は。
「まあ……視界に入ったもので……」
「視界に入ると言うより、探したんじゃない?」
そうかな……と、俺はぼんやり考える。
みんなと一緒にいる時は、みんなとの時間を過ごしたい気持ちは確かにあった。
「みんなに気を使うのはいいんだけど、少しだけ彼女と一緒の時間を取ったらどうだい?」
「彼女と……」
「こういうイベント、一緒にいたことあったかい?」
「ない……です」
先輩に言われて、考えた。
確かにこういう都市全体のイベントになると、俺たちは職場のコミュニティを優先にしている。
それは付き合う前からもそうだった。
考えると確かに、彼女とこういうイベントを過ごしたことはない。
その時、脳裏に過ぎる、付き合う前の彼女の言葉。
『こういうイベントの時、参加出来ないことが多くて……』
寂しそうに笑っていた彼女。
あの言葉を聞いて、俺はもっと彼女を外に連れ出したくなったんだ。
その時の気持ちを思い出すと、彼女とこういう大きなイベントの思い出が全くないことに寂しさを覚えた。
「おーい、聞いているかい?」
先輩が、俺の目の前で手を振っていた。
「すみません、聞いてませんでした」
「だよな」
「あの、彼女のところに行ってきて良いですか? すぐ戻るんで!」
俺は少しだけ切羽詰まった言葉と共に、先輩を見上げた。
その言葉を聞いた先輩は、嬉しそうに笑ってくれる。
「もちろん、行っておいで。俺からみんなに伝えておくよ」
「ありがとうございます!!」
俺はスマホを取り出して彼女にメッセージを打つ。
『少しだけ、抜けられない?』
おわり
視線の先には
7/19/2024, 12:53:26 PM