とある恋人たちの日常。

Open App
7/16/2024, 12:43:29 PM

 救急隊の仕事でヘリに乗ることがある。
 昼夜問わず救助に行くことはもちろん、病院待機の時もある。
 
 そんな今日は病院待機の日。
 俺は病院の外に出ると、ビルの隙間から風が通った。白衣がたなびき、風の抵抗に負けじと足を踏ん張る。
 
 
 風が抜けたあと、空を仰ぐと雲ひとつない綺麗な水色が、そこにあった。
 
 俺は当たり前のように、ポケットからスマホを取り出して空に向けてパシャリと撮る。
 
 スマホを操作して、いつものように彼女へ写真を送った。
 
「いい空だ……」
 
 水色って言っても色々ある中で、俺が一番好きな色はスカイブルー。この空の水色。
 
 それを見上げると、胸が温かくなって、嬉しくなるんだ。
 同じスカイブルーが好きな恋人が心に浮かんで、心が軽くなる。
 
「ああ、いま会いたいなー」
 
 俺は身体を伸ばしながら呟いた。
 
 スマホで写真を撮れば、共有はできる。
 そうじゃなくて、このきれいな空を一緒に彼女と共有したかった。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:空を見上げて心に浮かんだこと

7/15/2024, 11:55:40 AM

「だめだ、平行線だ……」
 
 そろそろいい時間になるぞ、この不毛な争い。
 正面には唇を尖らせ、頬を膨らませた恋人が座っていた。
 
 くっそ〜。
 本人は納得いっていないのだと思うけれど、この表情がめちゃくちゃ可愛いの、ズルくない?
 
「終わりにしよう」
「なら、引いてください」
「それはちょっと……」
 
 話は大したことない。
 美味しいお菓子を貰ってきて、それに入っている数が奇数で、どっちが食べるかという話しなんだ。
 
「最後、食べてください」
「美味しいって言っていたでしょ、食べていいよ」
 
 小さな押し問答が続けられてしまう。
 食べたくない訳じゃなくて、君が喜ぶところが見たかったんだけれど、何してんだろ、俺たち。
 
 頭を捻って出した答え。
 
「分かった、俺がもらうね」
 
 そう答えると、パァッと花が開く満面の笑み。
 もう、根本的に引かない理由が俺を喜ばせたい、俺に食べてもらいたいだからって分かるし、俺も同じなんだよ。
 だから。
 
 俺は最後のひとつを無理矢理ふたつに分けて、ひとつを自分の口に入れた。そして残りを迷わず彼女に向ける。
 
「あーん」
「ふぇ!?」
 
 ほんの少しだけ俺に視線を向けて、くすりと笑ってぱくりと食べた。
 
「うふふ、一番美味しいです」
「俺も」
 
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:終わりにしよう

7/14/2024, 11:43:52 AM

「どこ行こっか」
「なにしましょうかねぇ……」
 
 今日のデートはどうするか。車の中で相談しあっていた。すると、青年はパッと明るい顔をして、車を走らせる。
 
「どこへ行くか、決まったんですか?」
「うん、任せて!」
 
 きっと彼女なら喜んでくれる。そう確信している青年の笑顔と、喜ばせてくれる気だと理解している恋人の彼女。
 
「今日はね、雨が降っているから、室内で楽しめるところ!」
「え!? どこですか!?」
「へへーん。楽しみにしてね!」
 
 青年の弾む声に、彼女も同じように期待を膨らませている。
 
「……ありがとうございます」
「ん?」
「いつも、色々連れて行ってくれて」
 
 わくわくした声から、少しだけトーンを落として彼女が言葉を紡ぎ始める。
 
「あ、いいの、いいの。一緒に色々行くのが、俺の楽しみなんだから!」
 
 青年は職場に籠りっきりの彼女を連れ出すのが楽しみなのだ。
 それでも、遠慮してしまう彼女だと、青年は大いに理解している。青年は車を端に寄せて駐車して、彼女に視線を向ける。
 
「だからね、俺と一緒に遊びに行こう」
 
 彼女の手に青年は手を重ねると、彼女も握り返してくれた。
 
「はい、沢山連れて行ってください。私も何か知ったら連れていきます」
「うん、楽しみにしているね!」
 
 青年はどうしようかなと、少しだけ迷った。
 それに気がついた彼女は、何に迷っているのかと首を傾げる。もう、その姿が可愛らしいのに。
 
 ほんの少しだけ視線を逸らしたかと思うと、青年は軽く彼女の唇に自分のそれを重ねた。
 
「!?」
「じゃ、じゃあ、行こうか!」
 
 再び車を走らせる青年の顔は、とても熱かった。
 
 
 
おわり
 
 
 
手を取り合って

7/13/2024, 1:11:02 PM

 出張修理を終えて、一人でバイクを走らせていると、つい考えてしまった。

 彼は人の命を助ける救急隊のお仕事をしている。
 とても立派だし、出会いも怪我を治して貰ったところからだ。
 
 色々な人からモテるのは知っているの。
 
 そんな彼を支えたいって思っているけれど、彼を支えることは出来ているのかな。
 彼の車や、バイクを直すことは出来るけれど、彼の心を癒せているか、時々不安になる。
 
 彼の仕事のパートナーや、先輩はみんな女性だし、私は役に立てているのかな。
 
 
 遠くから彼が呼んでる声がした。
 気のせいかな。
 病院の近くじゃないし、家の近くじゃない。
 
 バイクを停めて、周りを見回した。
 
 すると、音を鳴らさずに走ってくる、彼の仕事の車が見えた。
 
 え?
 本当に呼んでた?
 
 彼の車が近くで停まると、周りを見回してから降りてきた。
 
「おつかれ! 出張修理?」
「はい、今帰りなんです」
「あ、そうなんだね。俺も救助終わった帰りなんだよ。良かった〜」
「良かった?」
 
 思わず首を傾げると、少し慌てて照れたように笑う。
 
「行きだったら、互いに迷惑かけちゃうじゃない」
「行きは、救助優先してください」
「もちろん!」
 
 苦笑いしつつ元気よく返事をする彼。
 そして、私のお客さんにも気を使ってくれる。
 本当に優しい人だ。
 
 あれ、もしかして……。
 
「あ、本当に呼んでました?」
「呼んでた、呼んでた。見かけたら、声掛けたくなっちゃった」
「え? 結構遠くから聞こえていた気が……」
「そりゃ、遠くにいたって見間違えないもん」
 
 何か用事があったのかな?
 そう思って、そのまま聞いてみる。
 すると、ほんのり頬を赤らめて、眩しいほど素敵な笑顔を向けてくれた。
 
「会えそうなら会いたかったの。疲れたから癒されに来た!」
 
 迷いのない満面の笑みを見ていると、胸が熱くなる。
 この笑みは、私のものなんだ。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:優越感、劣等感

7/12/2024, 11:57:34 AM

 ふと気がついた。
 彼女といるのが心地いいことに。
 
 なんだろう。
 疲れないから?
 いや、変な緊張すること多いし、疲れないってことは無いぞ。
 
 考えることが多い?
 ああ、確かに彼女といる時は考えることは多いかも。
 ちゃんとエスコートしたいって思うし、させてくれる。
 
 その割には無駄に力を入れなくて済む。
 
 他の異性は、やりたいことを押し付けられることが多い。
 それは考えなくて済むし、振り回されるのも嫌いじゃないけれど、それでいいのかなと思う時がある。
 
 それで気がついたんだ。
 彼女は、これまでずっと俺に対して、気を使って、俺を大切にしてくれているんだ。
 幼さや、おっちょこちょいなところがあって、こっちが心配しちゃうくらいで。
 そんなふうに見えないのに、とても優しい彼女。
 
 凄く、凄く胸が熱くなった。
 
 ヤバいな、耳が熱い。
 絶対に顔も赤くなっている。
 
 でも。
 凄く会いたい。
 
 これは、俺が彼女への気持ちを、明確に自覚した瞬間だった。
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:これまでずっと

Next