出張修理を終えて、一人でバイクを走らせていると、つい考えてしまった。
彼は人の命を助ける救急隊のお仕事をしている。
とても立派だし、出会いも怪我を治して貰ったところからだ。
色々な人からモテるのは知っているの。
そんな彼を支えたいって思っているけれど、彼を支えることは出来ているのかな。
彼の車や、バイクを直すことは出来るけれど、彼の心を癒せているか、時々不安になる。
彼の仕事のパートナーや、先輩はみんな女性だし、私は役に立てているのかな。
遠くから彼が呼んでる声がした。
気のせいかな。
病院の近くじゃないし、家の近くじゃない。
バイクを停めて、周りを見回した。
すると、音を鳴らさずに走ってくる、彼の仕事の車が見えた。
え?
本当に呼んでた?
彼の車が近くで停まると、周りを見回してから降りてきた。
「おつかれ! 出張修理?」
「はい、今帰りなんです」
「あ、そうなんだね。俺も救助終わった帰りなんだよ。良かった〜」
「良かった?」
思わず首を傾げると、少し慌てて照れたように笑う。
「行きだったら、互いに迷惑かけちゃうじゃない」
「行きは、救助優先してください」
「もちろん!」
苦笑いしつつ元気よく返事をする彼。
そして、私のお客さんにも気を使ってくれる。
本当に優しい人だ。
あれ、もしかして……。
「あ、本当に呼んでました?」
「呼んでた、呼んでた。見かけたら、声掛けたくなっちゃった」
「え? 結構遠くから聞こえていた気が……」
「そりゃ、遠くにいたって見間違えないもん」
何か用事があったのかな?
そう思って、そのまま聞いてみる。
すると、ほんのり頬を赤らめて、眩しいほど素敵な笑顔を向けてくれた。
「会えそうなら会いたかったの。疲れたから癒されに来た!」
迷いのない満面の笑みを見ていると、胸が熱くなる。
この笑みは、私のものなんだ。
おわり
お題:優越感、劣等感
7/13/2024, 1:11:02 PM