とある恋人たちの日常。

Open App

「だめだ、平行線だ……」
 
 そろそろいい時間になるぞ、この不毛な争い。
 正面には唇を尖らせ、頬を膨らませた恋人が座っていた。
 
 くっそ〜。
 本人は納得いっていないのだと思うけれど、この表情がめちゃくちゃ可愛いの、ズルくない?
 
「終わりにしよう」
「なら、引いてください」
「それはちょっと……」
 
 話は大したことない。
 美味しいお菓子を貰ってきて、それに入っている数が奇数で、どっちが食べるかという話しなんだ。
 
「最後、食べてください」
「美味しいって言っていたでしょ、食べていいよ」
 
 小さな押し問答が続けられてしまう。
 食べたくない訳じゃなくて、君が喜ぶところが見たかったんだけれど、何してんだろ、俺たち。
 
 頭を捻って出した答え。
 
「分かった、俺がもらうね」
 
 そう答えると、パァッと花が開く満面の笑み。
 もう、根本的に引かない理由が俺を喜ばせたい、俺に食べてもらいたいだからって分かるし、俺も同じなんだよ。
 だから。
 
 俺は最後のひとつを無理矢理ふたつに分けて、ひとつを自分の口に入れた。そして残りを迷わず彼女に向ける。
 
「あーん」
「ふぇ!?」
 
 ほんの少しだけ俺に視線を向けて、くすりと笑ってぱくりと食べた。
 
「うふふ、一番美味しいです」
「俺も」
 
 
 
 
おわり
 
 
 
お題:終わりにしよう

7/15/2024, 11:55:40 AM