今日は二階にある喫茶店で待ち合わせをしていた。
青年の仕事と、恋人の仕事の都合を考えて、この喫茶店で待ち合わせにした。
ぽこん。
スマホに通知が来る。青年はスマホを見つめた。
『もう少しで着きそうです。遅くなってごめんなさい』
今日、出社する人も少なく、引き継ぎがなかなか出来ずに会社を出るのが遅くなった。そう連絡は貰っていた。
それでも、遅くなってごめんなさいと言ってくるのが、実に彼女らしいなと、青年は小さく笑ってしまう。
そうこうしている間に喫茶店の窓から、彼女の姿を見つけた。
相当慌てていたのか、髪の毛が跳ねているのが分かり、胸が暖かくなって笑ってしまった。
頬を付きながら、彼女を愛おしそうに見つめる。
「俺は待つのも楽しいけれどね」
おわり
お題:窓越しに見えるのは
ろうそくの火のように、簡単に消えちゃいそう。
それが彼女の第一印象だった。
彼女が怪我をして、俺が助けて、怪我をしては、助けての繰り返しの彼女。
いつものように好きな飲み物を配っていると、渡したその飲み物を大切にしてくれていたと知った。
自分の好きな飲み物を教えると、新商品のその飲み物を俺に渡してくれた。俺も渡していたから同じものを交換しただけになって、笑いあった。
俺に後輩ができた頃、彼女にも後輩ができていて、その姿に頼もしさを覚えんだ。
好きな色、好きなもの。
それと、重なる時間が嬉しいんだ。
振り回され、自分の気持ちを押し付けられることばかりの俺を、気遣ってくれる人。
彼女が良いって思うのは、自然な流れだと思った。
「引き寄せた……よね?」
何気なく見つめた左の小指。
絶対に彼女にも繋がっている、よね。
おわり
お題:赤い糸
「うわあ……」
外に出て車を走らせる。
角を曲がりビル群から抜けて見えた空は、自分が大好きな爽やかな水色。
真っ青な空の下から白い縦長の三角雲に感動を覚える。
視界に広がる水色の中に立ち上る真っ白な入道雲は、とても綺麗だった。
車を端に寄せて、降りてスマホを向ける。
ぱしゃり。
スマホの画像を確認すると、先程見た水色の空が写っていた。
そして、迷わず恋人に、この写真とメッセージを送る。
『見て見て、綺麗な空だよ』
車のドアを開いて座席に座り込むと、スマホが震えた。
『すごいきれいですね!』
早い返事に自然と頬が緩む。
この後、すぐ会えるのに早く見せたくなったのだ。
ぽこんと通知が入る。
『雨が降る前に、迎えに来てくださいね』
その文字を視界に入れてハッとした。
あの雲は夏の風物詩の入道雲……積乱雲と言うやつだ。という事は、これから雨が降る!?
スマホをポケットにしまい、シートベルトを付けると周りの車を見ながらアクセルを踏み込み、積乱雲に向かって車を走らせた。
雨が酷くなる前に迎えに行かなきゃ!!
おわり
お題:入道雲
二人でテーブルに向かい合いながら、本日の夕食を口に運ぶ。
今日の夕飯は彼女がハンバーグを作ってくれた。彼の好物で、不器用な彼女は練習して、これだけは上手に作れるようになっていた。
「今日のハンバーグも美味しくできました!」
「うん、美味しい!!」
頬が蕩けそうな美味しさに、青年は満面の笑みでもくもくと口を動かした。恋人の手作りだ。美味しいに決まっている。
「そう言えば、来月にまとめて休みを取らない?」
「わ、いいですね! どこか行きましょうか!」
即座に恋人が同意してくれた。
「海、行きたいね、海!!」
「いいですね、海!」
「じゃあ、海決定で!」
「やったぁ!! 新しい水着買わなきゃ!」
「新しい水着……?」
楽しそうに言う恋人を見て、はたと気がついた。
新しい水着……。
その言葉に思考をめぐらせた。
恋人は行動と外見的に幼さがあるのに、身体のラインは人より良い。有り体に言えば抜群のプロポーションを持っているのだ。
最近は減っているけれど、彼女に対してセクハラをする顧客もいる。
「えっと……新しい水着?」
「はい!」
嬉しそうに言う彼女だが、青年の背中には冷や汗が落ちる。容易に想像できるのだ。豊かな胸元に視線を集めるだろう姿が。
「えっと、上着……着てくれる?」
「え、やですよ。暑いじゃないですか」
きょとんとした表情で、間髪入れずに返す恋人。
「じゃ、海やめよう」
「えー!? どうしてですか!?」
「上着着てくれないなら、海は嫌!」
「先に海って言ったのそっちなのにー!!?」
「もう少し、自分が人の目を惹くって分かってよー!!」
青年の意見としては。
彼女の新しい水着姿は見たい。
でも他人に見せるのは嫌だ。
心が狭いと言ってくれてもいい。
それでも彼女のナイスバディを他人に見せるのは嫌なのだと。
おわり
お題:夏
お付き合いして、それなりに経つ。
デートで行った場所は沢山ある。
ワーカホリックで職場から中々出ない恋人を、この街の知らないところを沢山見せてあげたい。
だから、色々な所へ連れていき、そういう小さいことの積み重ねが、彼女との思い出になった。
「今日はどうしますか?」
折角のデートなのだ。
変わりゆくこの街。
そんな街の新しいところを見つけてある。
青年は彼女に手を差し伸べた。
「行こう!」
ここではないどこかへ。
おわり
お題:ここではないどこか