「うわあ……」
外に出て車を走らせる。
角を曲がりビル群から抜けて見えた空は、自分が大好きな爽やかな水色。
真っ青な空の下から白い縦長の三角雲に感動を覚える。
視界に広がる水色の中に立ち上る真っ白な入道雲は、とても綺麗だった。
車を端に寄せて、降りてスマホを向ける。
ぱしゃり。
スマホの画像を確認すると、先程見た水色の空が写っていた。
そして、迷わず恋人に、この写真とメッセージを送る。
『見て見て、綺麗な空だよ』
車のドアを開いて座席に座り込むと、スマホが震えた。
『すごいきれいですね!』
早い返事に自然と頬が緩む。
この後、すぐ会えるのに早く見せたくなったのだ。
ぽこんと通知が入る。
『雨が降る前に、迎えに来てくださいね』
その文字を視界に入れてハッとした。
あの雲は夏の風物詩の入道雲……積乱雲と言うやつだ。という事は、これから雨が降る!?
スマホをポケットにしまい、シートベルトを付けると周りの車を見ながらアクセルを踏み込み、積乱雲に向かって車を走らせた。
雨が酷くなる前に迎えに行かなきゃ!!
おわり
お題:入道雲
二人でテーブルに向かい合いながら、本日の夕食を口に運ぶ。
今日の夕飯は彼女がハンバーグを作ってくれた。彼の好物で、不器用な彼女は練習して、これだけは上手に作れるようになっていた。
「今日のハンバーグも美味しくできました!」
「うん、美味しい!!」
頬が蕩けそうな美味しさに、青年は満面の笑みでもくもくと口を動かした。恋人の手作りだ。美味しいに決まっている。
「そう言えば、来月にまとめて休みを取らない?」
「わ、いいですね! どこか行きましょうか!」
即座に恋人が同意してくれた。
「海、行きたいね、海!!」
「いいですね、海!」
「じゃあ、海決定で!」
「やったぁ!! 新しい水着買わなきゃ!」
「新しい水着……?」
楽しそうに言う恋人を見て、はたと気がついた。
新しい水着……。
その言葉に思考をめぐらせた。
恋人は行動と外見的に幼さがあるのに、身体のラインは人より良い。有り体に言えば抜群のプロポーションを持っているのだ。
最近は減っているけれど、彼女に対してセクハラをする顧客もいる。
「えっと……新しい水着?」
「はい!」
嬉しそうに言う彼女だが、青年の背中には冷や汗が落ちる。容易に想像できるのだ。豊かな胸元に視線を集めるだろう姿が。
「えっと、上着……着てくれる?」
「え、やですよ。暑いじゃないですか」
きょとんとした表情で、間髪入れずに返す恋人。
「じゃ、海やめよう」
「えー!? どうしてですか!?」
「上着着てくれないなら、海は嫌!」
「先に海って言ったのそっちなのにー!!?」
「もう少し、自分が人の目を惹くって分かってよー!!」
青年の意見としては。
彼女の新しい水着姿は見たい。
でも他人に見せるのは嫌だ。
心が狭いと言ってくれてもいい。
それでも彼女のナイスバディを他人に見せるのは嫌なのだと。
おわり
お題:夏
お付き合いして、それなりに経つ。
デートで行った場所は沢山ある。
ワーカホリックで職場から中々出ない恋人を、この街の知らないところを沢山見せてあげたい。
だから、色々な所へ連れていき、そういう小さいことの積み重ねが、彼女との思い出になった。
「今日はどうしますか?」
折角のデートなのだ。
変わりゆくこの街。
そんな街の新しいところを見つけてある。
青年は彼女に手を差し伸べた。
「行こう!」
ここではないどこかへ。
おわり
お題:ここではないどこか
今日、僕はこの街を去る。
色々な思い出がある中で、この街にいることが少し辛くなってしまった。
仕事の転機に、この街を去ろうと決めたのだ。
最後に、彼女に会いに行く。
この街に来たばかりの時に、車の修理屋で対応してくれた女性。屈託のない笑顔、スマートな仕事さばき、請求書に添えられる優しい一言。
僕は彼女に恋をした。
でも、彼女は既に人のものだった。
「いらっしゃいませー、修理ですか?」
修理屋に行くと、彼女が出迎えてくれる。良かった。今日はシフトだったんだ。
僕は点検と修理をお願いする。彼女はいつものように仕事をする。手際の良い姿はやはり素敵だと思った。
胸がズキリと痛む。
「お待たせしました!」
時間が経ち、修理が終わって、請求書を渡してくれる。それを見ると、『いつもありがとうございます!』と書いてあった。
「こちらこそ、いつも修理をしてくれてありがとう」
そう伝えて支払いを済ませた。
とびきりの笑顔は忘れない。
僕は飛行場に向かう。
最後に見せてくれた、彼女の笑顔は忘れることは無いだろう。
どうか幸せに。
おわり
お題:君と最後に会った日
「わ! 綺麗ですね!」
青年が家に持ってきたのは一輪の硝子の花。
きらきらとして、光に反射してとても美しい。
「綺麗だよね。持って帰ってくるの大変だったー」
デパートで見つけた硝子細工。
その色合いが、以前彼女に贈ったネックレスの石に近くて、目を惹いたのだ。
土台のしっかりしたグラスに差して食卓に飾ると、恋人は硝子の花と同じくらい、きらきらした瞳でその花を見つめる。
硝子の花は自分たちが好きな水色の艶やかな花だった。
茎も丁寧で、花弁は細かく繊細に造られていて、変にぶつけたら簡単に壊れそうだった。
「今日だけここに飾って、明日はケースに入れて飾ろう」
「はい!」
そんなことを言いつつも、綺麗な月夜には出して見るのもいいかもしれない。
そうやって、ひとつひとつ彼女との思い出が増えるんだな。
青年はくすりと笑った。
おわり
お題:繊細な花