「どうしたの?」
「はい?」
「ぼんやりしてる」
「あ、ああ……」
思い出してしまった子供の頃のこと。
思い出したくないこと。
色々と考えていたら、ぼうっとしてしまった。
「えと……」
「うん?」
きょとんと恋人が見つめてくる。
過去のことは、なんとも伝えにくい。
だから伝えた。
「私、ここに来て良かった」
今度は驚いた表情を向けてくる彼。
その言葉の意味はきっと伝わらないと思う。でも、満面の笑みを向けてくれた。
ああ、無邪気なこの笑顔が本当に好き。
「俺もだよ。出会えて良かった」
迷わず正面から抱きしめてくれる。
「一年後どころか、これからもずっと、よろしくね!」
「ふふ、そうですね!」
でも、一年後か……。
確信がある。
ちらりと彼を見上げた。
彼といれば、しあわせだ。
おわり
お題:一年後
子供の頃のことは、あまり思い出したくない。
愛されなかったわけではないけれど、大人になるにつれて一人になり、どんどん居場所が無くなった。
だから、あの未来から逃げた。
逃げた先で、出会った人たち。
会社も、他でもかけがえのない出会いがあった。
なにより、彼と出会えた。
だから、しあわせな今がある。
「わたし、ここに来て本当に良かった」
おわり
お題:子供の頃は
今日も仕事が終わって、帰路につく。
ゆるい時はゆるいが、仕事本番は近著感が増す。それが救急隊の仕事だ。
今日も大変だった。
充実もしてるけれど、悩みだってある。
それが職場の日常だ。
さて、今日はどっちが先かな。
自宅からは、恋人の職場の方が近い。だけど盛り上がると帰りが遅くなるから、どちらが先に帰るか半々だった。
家に着くと、鍵を開けて、玄関の扉を開く。奥からいい香りがした。
今日は彼女の方が先に帰ったみたいだ。
奥の方から走ってくる足音。
「おかえりなさい〜」
その言葉と共に、飛びついてきてくれる彼女。俺も迷わずに抱きしめ返す。
「ただいま〜!!」
仕事で疲れていたけれど、これが心地よい。
「お仕事、お疲れ様です!」
「うん、君もお疲れ様!」
お互いを労る言葉から〝家の時間〟が始まる。
これが、俺の家の日常。
おわり
お題:日常
一緒に暮らすようになって、初めて迎える新しい季節に合わせた買い物をしようと休みを合わせた。
「やっぱり、夏に向けて冷感の寝具が欲しいですね〜」
「そうだね。せっかくなら足りない物を一通り揃えよう!」
「はい!!」
嬉しそうに微笑む恋人は、ぱたぱたと走ってくるりと振り返る。
「危ないよ、周り見てね」
「うふふ、はーい」
青年も軽く走り、楽しそうにしている恋人の手を握る。
「つかまえた」
「ふふ、つかまっちゃいましたね」
青年もつられて笑顔になった。
「まずは寝具」
「うん!」
ふたりで寝具コーナーに向かうと、色とりどりの寝具が並んでいた。
「どの色がいい?」
青年は挑戦的に彼女に微笑む。
その挑戦を受けるように、彼女も微笑んだ。
「もちろん……」
「「水色!!」」
声が重なった。
クリームソーダだけじゃなく、ふたりを近づけたきっかけのひとつは、好きな色が同じだったこと。
青年は、恋人がどう答えるか分かっていて聞いた。もちろん、彼女もその事を分かって答えた。
ふたりの部屋は、白を基調にしつつも水色をメインにしたものなのだから。
おわり
お題:好きな色
まだしばらくは松葉、取れないよなぁ……。
救助をしている途中に、足を滑らせて怪我をしてこの始末で、本当に情けなくなる。
でも、情けないなんて見せたくないから、自虐で笑ってみせる。
仕方がないなと、みんな笑ってくれたけれど、胸の奥にモヤモヤが広がっていた。
先輩に送ってもらって家に帰る。玄関を開けると恋人がそこにいて驚いた。
ソファに座って、みんなの時と同じように、自虐に笑ってみせる。
すると彼女は俺を抱きしめてくれた。俺に痛みが出ないように、気を遣った抱きしめ方をしてくれるのが分かる。
「……大丈夫じゃないです」
「いや、大丈夫だよ」
それでも笑って誤魔化した。
それなのに、少しだけ間を置いてから、更に力を入れて俺を抱きしめてくれる。
「あなたは大丈夫ですよ」
ああ、本当に。
君はそういう子だよ。
俺が凹んでいること、絶対に気がついてるよね。でも、それを言葉にしない。俺が俺でいることを肯定してくれるんだ。
さすがに嬉しい気持ちで溢れちゃうよ。
「ありがとう」
俺は彼女を抱き締め返した。
足が治ったら、もっと頑張ろう!
おわり
お題:あなたがいたから