私は必死になって走っていた。
――憧れは憧れ。
――背中を追いかけても無駄。
――凡人は凡人らしくしてればいいのに。
口々に放たれる声、小さい針で胸をチクチクと刺されるようだった。それでも私はあの人の背中を追いかけた。
毎日毎日毎日毎日、練習に明け暮れた。
まだ見ぬ世界はまだ遠い。
けれど。
私はあの人の背中を追いかける。
隣りに立てる日まで――。
別れ道、夕暮れ、夜の気配、君の真っ直ぐ伸びた影。
明日には君は行ってしまう、伝えられるのは今日しかない。頭では分かっているのに、何も言えないまま別れ道に差し掛かる。
見慣れた道が少し滲んで見える。
――また会える。
それだけ残して君はいなくなった。最後最後までずっと君は前向きで、でも最後の声は少しだけ涙で滲んで聞こえた。
貴方は、よくセントポリーアという可愛らしい花を一輪だけ私にくれました。
どうして毎日くれるのか分からないけど、私は嬉しかった。些細な贈り物だけど、私は幸せだった。
また、今日という一日が大切な思い出に変わる。そんな心持ちになれた。
「口下手な貴方の想い、ちゃんと伝わってたよ私も貴方にこの花を渡すね」
私はそっとセントポリーアの花束を貴方の側に供えた。
胸に芽生えたのはとても温かい貴方への小さな愛だった。
空はこんなにも遠い。
僕の声が届かないくらい遠い。
何時になれば君にまた会えるだろう。何時になれば僕の願いは叶うだろう。
君にもう一度、一目だけでもいいから――。
空はこんなにも遠い。
子供の頃、未だ世の中を知らない時分。夢は無限大だった。多種多様の夢の中から、僕は1つの夢を抱いた。
努力すれば絶対になれる。そう思って、疑わなかった。だけど、成長していくにつれて、悲しいかな現実の壁を見る。絶望し、挫折を繰り返す。夢が、あんなに輝いて見えていた夢が、恐ろしく思えてくる。投げ出し、逃げ出した。
けれど、やっぱり諦めきれず前、前、前へと進もうとする自分がいる。
食べ掛けのまま置いた夢を、子供の頃の夢を、諦められなかった。
だから、こうして僕は今此処にいる、立っていられる。あの頃は苦しかった、挫折も嫌というくらい味わった。人生、現実を知った。知ってきたからこそ、楽しいとも感じられている。
夢は絶望を与えるけれど、それと同様に叶った時の言いようない喜びと希望を与えてくれている。