月影

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6/15/2025, 1:08:21 PM

朝起きると、置き手紙と共にマグカップが置かれていた。
 さよなら、紙面にはそんな一言だけが書かれている。
 僕はカーテンに歩み寄り、さっと開けた。空は分厚い雪雲が占めている。ベランダに置かれた洗濯機の上や手摺に雪が積もっていた。
 昨日のあの人の悲しみに満ちた顔、微かに聞こえたあの人の愛してるの言葉。僕も愛している。今でも。
 だけど。
手を離したのは、先に手を離したのは、たぶんあの人じゃなくて。
 引き止める事は出来たはずなのに、しなかった、できなかった。手を伸ばせなかった、僕だ――。
僕はマグカップを手に取る。マグカップには黒いチューリップの柄がデザインされている。
――僕は忘れない、この日の雪とあの人を、たとえあの人に忘れてと言われても、僕は忘れない。
雪は白く、ゆっくりと音もなく降り積もる。

6/14/2025, 3:48:10 PM

もしも今の私を見たら君はなんて言うだろう。
 ビルの屋上は冷たい、風や雨に当たっているからかもしれない。いや、違う。体が冷たいんじゃなくて胸が冷たく感じる。心はあの日のまま、ただただもう会えない君のことばかり。
 もう耐えられない。こんな世界じゃ、生きてけない。
 私は手摺に手を掛ける。後はもうこのまま身を乗り出すだけ。
 やっと、これで君の元へ行ける。そっと目を閉じた。
もしも君が此処に居たら、なんて言うだろう。






6/13/2025, 11:45:52 PM

奏でる、生きる為に。
奏でる、大切な夢の為に。
奏でる、心憂い記憶を忘れる為に。
奏でる、大切な時間を過ごせるように。
 あと何回、何十回、何千回、一緒に奏で続けられるだろう。道は続く、これからも君の隣に居られますように。
奏で続ける、君と共にメロディを。終わりが来るまで――。

6/9/2025, 12:06:51 PM

――どうしてこの世界は悲しい。
――どうしてこの世界は醜い。
――どうしてこの世界は失望と絶望が入り混じっている。
 悲しくても、醜くても、失望、絶望に押し潰されそうになっても、僕はこの世界を嫌いになれない。君がいるならどんな世界でも僕は美しいと胸を張れる。
この世界に君さえいてくれれば僕は生きていける。

6/8/2025, 11:00:45 AM

今年も桜の季節が来た。
 君と歩いた道は薄紅色の絨毯が敷かれている。一人で歩くと酷く胸が痛い、行き過ぎる春風、木々に止まった小鳥の囀り、舞い散り落ちる桜の花弁、それから――。
 君の声が耳元で聞こえた気がして、振り向くけれど、余りにも遠すぎて面影さえ見えなかった。
今年も私は君と歩いた道を一人で歩く。遠い君を想いながら。

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