夢見る少女のように、絵本のお姫様に私は憧れていた。華やかなドレスに身を包み、格好いい勇者様やら王子様と恋に落ちる。
分かってる。分かってるよ。やっぱり、現実とは違うって、今の自分を省みる。学校では虐められ、家では親から成績の事ばかり言われ、毎日のようにできるアザや泪の跡さえ気づいていない。誰も助けてくれない。誰も私を気にかけない。
だから、嬉しかった。貴方が私の手を引いてくれたから、私は救われた。ずっと私の側にいてくれた。
夢見る少女のままじゃ生きていけない。けれど、貴方は私にとっての王子様だった。
さあ行こうと、手を引いてくれた貴方の手は暖かった。
あんなに朝が怖かったのに、貴方の手の温もりで不安で押し潰されそうなる夜も乗り越えられた。
早く朝が来てほしいとさえ思えるようになれた。
まだ手の温もりはまだ覚えてる、貴方の声も、全部大切な思い出だから。
ありがとう、貴方のおかげで私は一人で歩けてるよ。本当に、ありがとう。
私は貴方が眠る場所に手を合わせた。
風は冷たいのに、手だけは暖かった。
あいつに抱いたのは、恋か、愛か、それとも――。
当たり前のように何時も隣にいた。口数は少ない奴で、何処かほっとけなくて、側にいた。
一人にならないように、他の人達とも話さず、ずっとあいつの側にいたのに。―――それなのに。
あいつに抱いたのは、最初は恋だったかもしれない。愛だったかもしれない。だけど、今は酷く淀んだ暗く冷たい感情。
私以外の人といるあいつなんて、いらない。
冬の気配が漂い始めている。僕は一人、イヤホンを嵌める。
思わず泪が流れる、大切な人の面影が行き過ぎる。
――ねぇ約束しよう。
――また出会って、話をして、手を繋ごう。
――そしてまた恋をしようね。
「あぁ、約束だ」
僕はボイスレコーダーを止め、君の墓石にそっと撫でた。
堕ちていく。何処までも。
まだ続く、僕の物語〈人生〉は続く。
堕ちていく。堕ちていく。堕ちていく。
堕ちても、まだ続けようとする。這い上がろうともがき、足掻きながら物語〈人生〉を描き続ける。
――光なんて見えなくとも、周囲を闇が占めていても、僕は生き続けようと毎日もがく。無駄だと分かっていても足掻く。