どうしても叶えたい夢があります。
どうしても遂げたい夢があります。
月は陰り、夜が暗く染まって、照明が灯っていない部屋の中にアイリスの香りがします。
こんな夜長は寂しさと不安で胸が一杯になりま
す。とてつもなく、朝が待ち遠しいです。
明日が来たら、一歩でも夢に近づけますように。
雨が降っている。風が雨雲を運んでいく。
僕は去る人の背を見送る。悲しみを乗せ雨となって地面と建物、あの人や僕を濡らす。冬でもないのに風が冷たい。身体は震え、濡れた己の身体を抱く。身体もそうだが、心も冷たく寒い。
僕は震えながら。
去る人の背に向け、消え入る声で呟く。
―まって…。
まだ知らない世界、まだ知らない風景。
理を知らず、踏み出す勇気が持てないまま時間だけが過ぎていった。
白線の内側で私はただ見つめていた。あれだけ憧れていた場所だった筈なのに、怖気づいていた。恐ろしかった。けど、あの人のお陰で踏み出せた。背中を押されて、気持ちに踏ん切りが付けられた。
あれから数年後、あの人もまた私の知らない世界へと旅立ったと風のしらせで知った。
私はあの人の笑った顔を思い浮かべ、もらったペンダントを握りしめた。
空っぽになった鳥籠を手に飛び去る蒼鳥を僕は見送る。これで何羽目だろう、色とりどりの鳥を手放したのは。愛着が無くなったわけではない、要らなくなったわけでもない、もう二度、この手に入らない事は知っている。手放したのは、幸せに出来る自信がないから。鳥達にはどうか幸せになって欲しいから。朽ち欠けた己の手に視線を落とす、漸く、あと一羽だけが残っている。
僕はそっと鳥籠に手を伸ばす。
「僕の時間の中にいてくれてありがとう」
手放す、勇気を振り絞って鳥籠を持ち上げた。
光がなくなった。暗闇が全てを奪った。
あの光は僕の全てだった。やっと手に入れた、漸く叶ったというに、何故こうもあっさりと。
残ったのは、言いしれぬ絶望と暗闇だけ。
僕は地面に両膝をつき、叫んだ。絶え間なく叫び続けた。声を枯らし、声が出なくなるまで、無様にも叫んだ。だが、何も変わらない。明日さえ見えない、何処までも、何も見えない。僕の声は無惨な空気になっただけだった。